過去に見たことのあるものとは似ているが

どこかが違うような気がする、だが共通しているものがあるのも事実

 

「まったく、厄介なものだ」

 

だが、なんとしてもこの場で始末せねば我(ワタシ)の命(おもに味覚)が危うい。

 

「おい、金ぴか、どうにかするってつってもどうすんだよこんなの」

「とりあえず片っ端から消すしかあるまい、行け野良犬」

「テメエ、空戒とあのアマの次にぜってえ殺す」

「出来ないことは言うものではないぞ野犬、それよりも

あの『泥』には触るなよ、飲み込まれるぞ」

 

以前のものよりも禍々しくはない

やはり、ヒトの中に納まっていたからか?

まあそんな細かいことなどあれこれと考えてもしょうがあるまい。

面倒だ、あの男さえ殺してしまえばどうとでもなるだろう。

 

「『泥』みたいなのは消してもいいけどあの人を殺したら貴方はこれから

三食間食とわずマーボーになるかもしれません気を付けて」

「ランサー、なんとしてもあの『泥』を殲滅し且つ、貴様の連れを救出せねばならん

面倒だからとあの男だけ殺してしまおうなど考えるでないぞ!!」

「今ぜってぇそう考えてたろテメエ……」

「煩い!!あれだけは、マーボーだけはもう嫌なんだ。あんな地獄を皿の上で再現したものなど……」

 

あんなものを口にするぐらいならいっそのこと七色の邪夢を……同じことか。

ええい、とにかく、

 

「やるぞランサー、我(ワタシ)の舌の平穏のために!!」

「なんか気が乗らねぇが、まあいいか」

 

 



 

 

                     Fate/stay night

                               欠陥魔術師

                        序章 第四節 「安息、束の間の時」

 

 

 



 

SIDE 空戒

 

なんだ、この『泥』は。何故俺から出てくる。

何故、この『泥』は俺に笑いかけるように見える。

何故、何故こんなにも昂揚している。何故こうも力が満ちている。

それなのに何故俺は動けない。何故手足の感覚がない。何故これ程の魔力が溢れている。

それで何故いつもの苦しみが、痛みがない。何故、何故……

 

「大人しくしているがいい、すぐに終わらせてやろう」

「だったらさっさと手ぇ貸せよクソッタレ!!」

「喧しいぞ駄犬が!! ならば巻き込まれても文句はあるまいな」

「はぁ!? ちょ、待てやコラァ!!」                                                                                                                                                                                                                                                                       ゲート・オブ・バビロン                                                                                          「もう遅い!! 喰らえ“王の財宝”!!」

 

瞬間、空中に浮かぶ無数の刃、直刀、曲刀、槍、矛、斧その他にも幾つもの刃が

目の前の空間を覆い尽くし、それが俺を、否、俺の足元に広がる『泥』を目掛け一斉に降り注ぐ。

 

ドゴンッ……!!

 

あっけないほどの脆さで『泥』を跡形もなく消し去る刃の波。

地面から生えた様にも見える刃の山は、不恰好な墓に見えなくもない。

 

ズキッ

 

っ!! ……左眼が痛む。大気中に漂っている魔力の残滓が流れ込んでくるせいだ。

眼帯は、何処だ……

…………

……あった。キャスターが蹲っている傍に落ちている。

早く着けなければ、魔力が溜まってしまう……

 

「おい、空戒聞こえてっかぁ? お〜い」

「聞こえている。鬱陶しいから目の前で手を振るなランサー」

 

ランサーを押しのけてまっすぐキャスターの傍に歩み寄り、眼帯を拾い上げ左眼に当てる。

すると、魔力の流れが抑えられ痛みが引いていく。

 

「やっと話せる様になったみたいね、クウカイさん?」

「カレン……なんでお前がここにいるんだ」

 

カレン・オルテンシア・言峰

見た目はまったく似ていないが言峰綺礼の娘

だが幾ら外見が似ていなくても中身はそっくりな親子

以前誤って言峰を殺しそうになったときに捕縛された時からかなり苦手だが

俺に仕事を持ってくるのがこいつだから自然、顔を合わせることが多くなったが

 

「バゼットを遠坂先輩、いえ、義姉さんが見つけたからそれを知らせに来たのだけれど

それはあくまでもついで、本題は・・・・・どこに行くつもりかしら?ギルガメッシュ」

 

ビクッ!

 

と、いつの間にか俺の後ろを通って逃げ出そうとしている奴の動きが止まる

ギルガメッシュ?ああ、ギルガメッシュか。

何でさっき気が付かなかったんだ、分かっていれば放って置いたのに・・・・・・

 

「ギルガメッシュ、私が貴方に頼んだこと、覚えてる?」

「うっ・・・食料の買出しと現金調達」

「そう、覚えてたのね、それで?現金はともかく食料はどうしたのかしら」

「あ、うぇあ、その、なんだ、え〜・・・・・そうだ!キャスターとそのマスターを見つけたので

捕獲しようとしてだな、ほれ見ろ、この通り召し捕って・・・・・・」

「いいわよ、もう怒ってないから、ただ貴方が帰ってこなかったせいで父さんが泰山のマーボー三人前

出前頼んでしまったのだけれどね」

 

二人とも顔に縦線が入ってとても暗い、はっきり言って死刑囚のそれだ。

今にも死にそうな顔をしている、だが何で泰山のマーボーがそんなに嫌なんだ?

まあ、それを考えたところでどうせ意味はないだろう、今はそれよりも・・・・・

 

「あのよ、なんか色々とあんのかもしんねえけどよ、キャスターはどうすんだよ」

「「あ」」

 

このダブルサドめ、忘れてやがったな。

まだ若干位置に違和感がある眼帯を付け直しながら

屈みこんでキャスターの上半身を抱き起こす。

 

「キャスター、このままではお前は消えることになるが、どうする

このまま大人しく消えるか?」

 

死にたくないのならば助けるがこのまま消えたいというのであれば

せめてもの情け、すぐに消してやろう。

 

・・・・にたくない、私は、まだ、死にたくない

「分かった、助けよう」

 

小さな声だったがはっきりと死にたくないと意思表示している

ならば全力を持って助けよう。

右腕の袖を捲り左手の爪を右の手首に当てて一気に引き切る。

 

ブシッ・・・・

 

「飲めるか?」

 

傷口から血が抜けるたびにじくじくと痛みが生ずるが無視してキャスターの口元にもっていく。

僅かづつではあるが唇と喉が動いているので飲めているのだろう、暫くはこのままか。

なら色々と片付けておくか。

 

「俺を殺すのなら今の内だぞランサー」

「何だよ、知ってやがったのか」

 

悪ぶれることなく殺人未遂を自白する槍持った全身青タイツ

あんだけ殺気出してりゃ誰でも気付く

 

「目の前に無防備な獲物が二人もいて逃すお前じゃないだろ」

「ま、そうなんだけどよ、そっちの金ぴかがさっきにも増してこっち睨んでっからよ」

 

視線をキャスターから前にいる二人、そのうちギルガメッシュを見てみると

その目ははっきりと語っていた

 

「今日の夕飯、これから作るのだがな何を作るか決めていないうえに

一人での食事はなかなかに味気ないのだが・・・・・」

「そうか、それは哀れな、でわ我等二人が一緒に食事をしてやろう、感謝するがいい

両手に花というヤツだぞ?小娘、貴様もそれで良いな」

「ええ、構いません、クウカイさん私、贅沢は言いません、マーボーでなければ例え

店屋物でもコンビニ弁当でも構いません、ええ構いませんとも」

「なにやら切羽詰っているようだが、悪いが途中で買う金がない

至急に用意しろというならお前の父の元に行かねばならんが」

「ご心配なく、貴方の報酬でしたら私が預かっていますから、その中から出せば大丈夫です」

 

鬼だ、悪魔だ、ヒトでなしだ

あくいのてんし カレン・オルテンシア・言峰

俺のライフラインを握っているのがこいつで

そのライフラインから搾り取るのが今日発覚したこいつの義姉とは

・・・・・・・居ないだろうがあえて訊ねたい

 

ジーザス、俺が何をした・・・・・

 

「というわけだ、なんか知んねえけど余程マーボーを食いたくないんで

テメエが生きてねえと困るらしい」

「ならば一時休戦か、いやまだ戦っていなかったな」

 

そう、あくまでもまだ戦っていないだけだが

 

「ともかく、何時までもこうしていられん、結界など当の昔に消えているんだ

少々遠いが俺の家に行くか・・・・・・ランサーお前はどうするんだ、マスターが見つかったそうだが」

「おお、そうだ嬢ちゃん俺のマスターどこに居るんだ?」

「裏道で倒れてるのを拾ってもって帰ったって聞いたから義姉さんの家に居るんじゃないかしら」

「そうか、んじゃオレはここまでだな、バゼットが無事と分かりゃどうにでもなるしな」

 

そう言って表通りとは逆のほうに歩いていくランサー

まあ確かにマスターが無事ならサーヴァントが何してようが必要なときには

呼ばれるのだから付いてくる意味はないだろう。

あ、ふと思い出した、確かさっきギルガメッシュがランサーのことを光の御子と言っていたな

ということは・・・・・・

 

「ランサー、一つ聞きたいんだが体は大丈夫か?」

 

は?とわけが判らないという顔をしている。

大丈夫なのだろうな、だがこれだけは言っておこう・・・・・

 

「いや、お前が先ほど無理やり飲み込んだあの食い物の名前、知ってるか?」

「いんや、初めて食ったんでわかんねえけど、それが俺の体とどう関係あんだよ」

「あの食い物の名前な、ホットドッグと言うんだがな・・・・・」

「なっ・・・・・!!」

 

ビシッ!!

 

と言う音が聞こえたかと思うと(恐らく幻聴だろう)

目の前のランサーが動きを止めてかと思うと小刻みに震えだし

ギルガメッシュは顔を真っ赤にして何かを堪えている

カレンは俯いて肩を震わせ、キャスターもよく見ると微妙に震えている

 

「なんてモン食わせやがったんだテメエ!!!」

「あっははははははははは!!」

「くすくすくす・・・・・」

「っく、くすくす・・・」

 

ランサーの絶叫を合図に我慢が効かなくなったのか

皆いっせいに笑いだす。

 

「笑うんじゃねえ!!ちくしょうーー!!」

 

脱兎のごとき速さで駆けていくランサー

どんなに弄られようと流石は全サーヴァント中最速のサーヴァント

あっという間に見えなくなった。

 

「すまんランサー、悪気はなかった」

 

とりあえず謝っておく

そんなことよりも

 

「帰るか。キャスター歩けるか?」

「あ、はい、何とか歩けます」

 

そういって立ち上がるとその時点で既にふらふらしている

こりゃ、家までは到底無理だな

 

「カレン、ギルガメッシュ、悪いがキャスターを看ててくれ

アシを捜してくる」

 

この時間なら盛り場に行けば単車の一台や二台ぐらい置いてあるだろう

 

「アシならあります、ここに来るときに乗ってきましたから

いま持ってきます」

 

は?何に乗ってきたと?

カレンが確認する間もなく表通りに出て行き暫くすると

 

ルルルルルルルル・・・・・

 

なんだ、このやたらと排気量が多そうなエンジン音は・・・・・・まさか。

はっきり言ってかなり嫌な予感がする、こっれと似た様な音を聞いた覚えがする

そしてその予感が当たったとしたらかなり嫌だ。

しかし、期待どおりと言うかなんと言うか、目の前には

 

サイドカー付きのハーレーダビッドソンに跨ったシスターが居た

 

「お待たせしました」

「一応聞いておく、まさかとは思うがお前のか」

「ええ、去年父が誕生日に新しいのを買うからと譲ってくれました」

 

もはや何も言うまい、どうせ言峰のすることだ、気にしたら負けだ。

だが、まさかとは思うが普段からこれに乗っているんじゃないだろうな

 

「流石に普段からは乗っていませんよ、日本の警察というものは随分と

執拗に追いかけてくるので正直鬱陶しいですし」

 

って、おい、それはつまり以前は乗っていたと

 

「それよりも早く行きましょう、キャスターをサイドカーへ」

「あ、ああキャスター、失礼する」

「え?キャッ!」

 

ふらふらと立っていたキャスターの膝の裏と背に手を回してサイドカーまで運ぶ

後ろとハーレーから微妙に圧力が・・・・・気のせいだろう

 

「ギルガメッシュ、さっさと後ろに乗りなさい」

「い、いや、できれば運転してみたいのだが・・・」

「運転したいのなら自転車に乗れるようになってからになさい」

「な!そ、それとこれとは話が別・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・!!」

 

ほぉ、ギルガメッシュは自転車に乗れないと、いいことを聞いた。

いろいろと言い争った末に結局ギルガメッシュはカレンの後ろに乗ることとなった

だが、ハーレーに跨った二人の女性、ただし運転するほうがシスターとはかなりシュールな光景だ

ん?ちょっと待て、俺はどうするんだ?

 

「では先に行っています、食事のほうは適当に見繕っておきますのでご心配なく」

「おい、待てコラァ!!」

「待てといわれて待つのは愚かな犬だけです、それでは」

「でわなクウカイ、遅いと先に始めているからな」

 

不味い、こいつ等ひとの家漁るつもりだ、なんか少し機嫌悪そうだし絶対やるだろう

いかんな、このままでは俺の秘蔵の森伊蔵が、百年の孤独が、魔王が、天使の誘惑が!(全部酒)

全て二人のあくまの手に落ちてしまう!!

しかもこいつ等俺の慌てる様見て楽しむつもりだ、このダブルサド。

 

ルルルルルルルル・・・・・

 

無常にも鉄の馬の蹄の音が遠ざかる

 

「・・・いいだろう、やってやろうじゃねえかちくしょう!!」

 

家まではどんなに飛ばしても二十分、それを上回るには唯一つ。

 

魔式、展開

 

思考、変更、なし

 

魔力、精製

 

両足へ魔力集中

 

 

「直進あるのみ」

 

疾っ!!

 

ドンッッ!!!

 

さっきまで立っていた所が若干陥没したが気にしない

今の目的はただ一つ・・・・・・

 

我が血潮、我が命の源にして我が盟友達を彼奴等の魔手から守り抜かねば!!

 

冬の夜空を跳びながら思う。

何かを忘れているような、そもそもなんであいつ等は俺の家に来るんだったか・・・・・

眼下に赤いパトランプの光が見える、その先には三人乗りのハーレー・・・・・

ふっ、勝ったな。

 

それにしても、今日は随分と月が綺麗だ

 

「帰ったらあいつ等と月見も良いかもしれんな・・・・」

 

 

聖杯戦争が始まるまでの短い安息、できることならこのままでいたいが

そうも言っていられんのだろうな・・・・・・・

 

「いよいよ始まるか、聖杯戦争が・・・・・」

 

願わくば聖杯戦争後もこのときと同じ安息を送りたいものだな

 

ダンッ!!

 

何度目かの跳躍の末に我が家が見えてきた。

 

「さて、冷蔵庫の中に何か残っていたかな?」

 

今日はちゃんと料理を作ろうか。

 

 

 

第一章 『聖杯戦争』へ

 

つづく ・・・・

 

 

 

 


あとがき

 

はじめまして、こんな未熟者のSSを読んでくれた方、ありがとうございます。

今回で序章がこれで終わり一区切りが着いたのであとがきをと思い書くことにしました。

さて、次回からは第一章としてFate本編と絡んできますが

基本的には空戒と士郎の二人が主人公として書いていく予定ですが

士郎をメインとするなら空戒は裏方というような扱いが多くなりますが

ちょくちょく絡んでいきます。

序章は読みにくかったかもしれませんが第一章はもう少し読みやすくなると思います。

それでは今回は挨拶まで。

 

追記

下のおまけはただの気まぐれで書いたものなので

あまり気にしないように。

 

 

 

 


 

 

 

 

おまけ

 

???

 

暗い室内、腕を組んだ一人の男

彼は何か考えているのか眼を閉じてぴくりとも動かない

 

かっち、かっち、かっち、ボーン・・・ボーン・・・ボーン

 

と、この部屋の中で唯一動きを止めていなかった柱時計の針が一つになり時間を知らせる

その音を合図に男の目が開く

 

「遅い、何故迎えに行くだけでこれほど時間が掛かる」

 

男の目の前には皿に盛られた赤黒いナニかが三つ置かれている

それは作られたばかりのように湯気が立っていた

 

「ギルガメッシュはともかくとしてなぜカレンまでもがこんなにも帰りが遅い」

 

男、言峰綺礼は、自分の娘の帰りが遅いためにやや落ち着きがない

そのせいか、今日はマーボーが半分も喉が通らなかった

 

「まさか、向かいに行った先で全身タイツの変態に襲われたなどということは・・・・」

 

やたらと具体的だが当たらずとも遠からずといったところだが

 

「いや、いくら私の娘が名前の通りに可憐で愛らしく花も恥らい月が隠れる程魅力的であろうとも

そのようなことはあるまい、いや、あってはならん!!

こうしてはいられん!!探しに行かなければ!!」

 

ガタン!!

 

荒々しく椅子を蹴立てて自室へと向かう

 

「ふっふっふ・・・・もし私の娘に妙なマネをしようとしている輩が居るのならば容赦はせん」

 

自室の壁に半ば埋まっている十字架を取り出し動きに支障がないかを調べる

 

ジャコッ!

 

中央のハンドルを回すと十字架の長いほうの先が真ん中で別れ機関銃の銃身が覗いている

それに満足しハンドルを更に回すと

 

ジャコッ!

 

機関銃が閉じ、それとは逆の位置がまた別れ今度はバズーカの砲身が覗いている

その動作にも満足しハンドルを最初の位置へと戻し今度は十字架を立てて逆に捻ると

 

ジャジャコッ!

 

機関銃とバズーカとは違う軸の両端からハンドガンがずらりと並んでいる。

それを一つづつとって動作を確認する。

一通り確認が終わり今度はベットを裏返すとそこには黒い大型の銃が一丁と銃剣が数十本収められていた。

その中から銃剣数本を取り出し手応えを確かめてコートの内側へ仕込み。

黒い大型の銃をホルスターにしまいこれもまたコートの内側に身に着ける。

 

「我が強敵(友)達よ力を借りるぞ」

 

十字架を背負い銃剣を懐に持って教会の裏に置いてある愛車とは別の

こんな時のために用意してあったもう一台の方

 

ドルンッ!!ドッドッドッドッド

 

いろいろと改造しすぎて排気量が倍近くなっているであろうハーレー

その鋼鉄の馬の背に跨る異様な格好の神父

 

「待っていろカレン、今父が行くぞ!!」

 

ルルルルルルルルル・・・・

 

その背に十字架を背負い

その胸に娘への思いを抱き

右手に銃を、左手に銃剣を

娘に仇なす者には凄惨たる死を与え

娘に言い寄る者にはこの世の果てを見せ

娘に懸想する者には永久の安らぎを与え

如何なる者の制止も聞かず

如何なる者の妨害を蹴散らし

その身は、娘の為に在りて娘の為に命を惜しまず

その心は、娘のことを思い娘の為に死を恐れず

その魂は、娘と共にあり娘の為に滅びを怖れず

ただ娘のために生きていた

 

これはそんな漢の愛と憎しみの物語

目指す娘の行方は知らず

ただ己が持つ父の勘を頼りに

冬の町を駆け抜ける。

 

我が娘カレンにもしものことがあれば

神よ!!私はたとえ貴様でも持てる力の限りを尽くし

必ず殺す!!!

 

 

その頃娘は

 

「っくしゅ・・・」

「風邪か?」

「いえ、大方どこぞの娘離れできない父親が何かわめいているんでしょう」

 

変に正確な勘などは流石は親子、妙なところで似通っている

 

「ところで、いい加減後ろの官憲が鬱陶しいわね・・・・・キャスター」

「は、はい!なんでしょうか」

 

先ほどから一言も話さずにじっとしていたが話しかけられ

若干反応が遅れた。

 

「貴方が座っているところに大き目の缶みたいなのが転がってるでしょう」

 

言われて足元を探してみるところころと転がっているものを見つけた

 

「あった、それでこれをどうすれば・・・」

「それをギルガメッシュに渡して、ギルガメッシュ、使い方は分かるわよね」

「うむ、何度か使ったことがあるからな」

 

そう言ってキャスターから缶の様な物を受け取り慣れた手つきで缶の先に付いた

輪に指を通して引き抜き後ろを振り向く

 

「5・・4・・3・・2・・1」

 

ひょい・・・・・

 

ボンッッ!!

 

キキィイィーー!!

ガシャン、ガン

ビーーーーー!!

 

「うむ、上手くいったな、流石は我(ワタシ)だ」

「ふぅ、これで追ってこれないでしょう、主よ、感謝します、Amen・・・・くすっ」

「あ、あの、凄いことになってるみたいなんだけど」

「天罰です、彼より早く着かなければいけないというのに邪魔をした者が受けるべき当然の報いです」

 

視線を上に向ける

 

(今日は月が良く見えますね・・・・)

 

ハーレーを駆りながら思う

 

(後で連絡を入れておきましょうか、こんな月夜は父が暴走するかもしれませんし)

 

もっとも、既に手遅れなのだが。

それを知るのはもう少し後のこと。

 

 

 

つづく・・・