酷い夢だった。
赤い、空も海も、大地までもがただ只管に赤い世界。
何のことは無い、いつもの夢だ。
それはまだ兵器といえるものも無い、人の手による殺し合いの場所。
そこは戦場だった。
あるものは血に塗れて狂い、あるものは形を残すことなく朽ち果て
またあるものはこの世に未練や恨みを残し、とどまり続けている。
私では彼らを救ってやることはできない。
故に私は死を蒐集しその者達の命の証を明確に記録する。
全ては死の先にある『 』へと至るために
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Fate/stay night
序章 欠陥魔術師
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
SIDE ?
目が覚めると、木刀が目の前まで迫っていた。
「ヌオッ!」
回避、間に合わない。
防御、獲物が無い。
ならば!
ブンッ! ガシッ!
「っち、惜しかったな、あと少しでとれたのに」
「貴様、朝っぱらから人の首取りに来るとはどういう了見だ」
両手の合掌した間に木刀――おそらくこの家にあったものであろう鉄芯入り――を挟んだまま襲撃者に問いかける
「朝駆けか闇討ちでもしないと一本も取れないだろう」
などとのたまう襲撃者は我が幼馴染にして天敵、美綴綾子。
こいつは何でか知らないが昔からよく突っかかってくる。
最初はどうということもない子供同士の遊びから始まり、武道にいたり、最近では弓道で勝負していたが、
俺は部活を辞めて弓を取らなくなった。
それが気に入らないのか、こいつはほぼ毎日のように弓道部への復帰を促してくる。
「今の一撃は当たっていたら確実に逝ってたぞ」
「アンタがこれぐらいでくたばるなんて思っちゃいないさ」
なぞと軽く言ってくれる・・・・まあ、確かに鉄芯入りの木刀で殴られても死にはしないが、痛いものは痛い。
「それはそうと今何時だ」
今まで寝ていた場所――昨日は部屋に帰っていないので道場の中――には時計が無いので時間が分からない。
体内時計も妙な夢を見たせいで狂っている。
「6時37分18秒、遅刻リミットまで後5分ってところだけど」
6時37分か、何時もより半刻も遅いな、だが十分に間に合う時間なんだが・・・・・・
ああ、そういえばこいつは弓道部の朝錬があったんだったな、なら確かに遅刻はまずいだろう。
「なら急いだほうがいいな、朝錬に主将が遅れたらしめしがつかんだろう」
「それもそうなんだけどさ、今日こそはあんたに来てもらうからね」
無茶を言う、俺はもうとうの昔に部活を辞めている。今更顔を出してもほかの部員に迷惑なだけだろう。
それに俺は片目を10年前の火事でなくしている。
そんなヤツが弓道なんぞを続けるなんてのはさすがに無理がある。
「お前な、俺は片目しかないんだぞ、そんなヤツが弓道なんて出来るわけないだろう」
「じゃあその片目しかないヤツに一度も勝ったことのないあたしはどうなるんだよ」
そうきたか、確かに見えてはいないが『視』えてはいるからたいした苦労もなく射ることはできる。
養父曰く、俺の眼は特別製らしい。
だがいくら『射』が出来てもどうにもならない物がある。
言ってしまうと、金、キャッシュ、マネー。要するに先立つものがなく、それを稼いでいかなくてはならなくなったからだ。
以前ならば養父が用立てておいてくれたのだが、何年か前に探していた物が見つかったとか言って出て行ったきり戻ってこなくなった。
おそらくは何処かで誰かに殺されでもしたのだろう、それ以外のことであの養父が死ぬことなぞ考えられんからな。
そういう理由もあって部活は辞めたんだが。
「何度も言うが、俺は・・・「出席日数、危ないんだったよな」・・・む?、確かにそうだが」
以前知り合いが紹介してくれた仕事で一時期学校を長期間休んでいたことがあり、今現在の出席日数が進級できるかどうかの
瀬戸際であることを先日担任の藤村から告げられたことがあったが・・・・・まさか。
「藤村先生に協力してもらって出席日数いじってもらうことが出来るって言ったら、どうする?」
予感的中、だが藤村とて一教師、そのような落第者を出すような不正行為をするはずが・・・。
「一週間分の昼食で快く引き受けてくれた」
・・・・・・・一週間、俺の進級は一週間分の食事の価値しかないのか?藤村よ。
「ついでに衛宮にも協力してもらって夕飯にも一週間一品増やすように頼んでもらった」
どうだ、と言わんばかりの表情の綾子・・・・・まあ、いいさ行ってやるよ。
だがとりあえず、衛宮にどう報復してくれようか、それが問題だ。
「というわけだからさっさと準備してきなよ、遅れたら出席日数が減るぞ〜」
クソッ、今はとにかく出席日数は死守しなければ、せめて高校だけは出なければまともな職に就けん。
弓と弓道衣に袴、どこにやったっけか。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
結果、どたばたと道具を探しているうちに遅刻のリミットなぞ過ぎていたため、現在二人は自転車により高速移動中。
現在時速60km/s
幸い人はそんなに出歩いていなかったため目撃されることはなかったが、もし誰かが見たとしても自転車には見えなかっただろう。
「ちょ、ちょっと、速すぎ、もっと、ゆっく、り・・・・」
後ろに乗っている綾子が何か言っているがそんなことよりも今大変なことに気が付いた。
ブレーキが壊れてた
そういえばブレーキが壊れたまま放置していたんだったな。
しかし困った、一人だけならまだどうにでも対処も出来る。だが今は後ろに綾子が居る。
今から減速しようにも学校の門はもう目の前まで迫っている。
何人かの生徒が校門の前に居るがその中に見知った顔が居た。
「すまんな綾子、部員が一人減るかもしれんがそこは俺が入ることで補うから許せ」
口ではすまんとは言ったが実際はかけらも思っていない。
やつも人の助けになるんだ、普段使えないヤツだがこういう時ぐらい役に立ってもよかろう。
間桐、恨むなら自分の不運を恨め
目標補足。
距離確認。
後ろの綾子をしがみつかせ荷物を確保。
間桐がこちらに気付き慌てる。もう遅い。
さらばだ、我が出席日数のために散れ!
ドキャッ!!
キャーだの、ワーだの、ヨッシャーだのと悲鳴や歓声が聞こえてくるような気がするが無視。
何かが悲鳴を上げながら高いところまでとんでるような気がするがそれは錯覚だ。
その後すぐに水を詰めた皮袋が地面にぶつかるいやな音がしたが気のせいだ。
自転車は無事に止まったし時間にも間に合った、まあ多少自転車の色が赤く変わったのを除けば何の問題も無い。
「朝錬には間に合ったぞ」
先ほどからずっと黙ったままの綾子に声をかけるが返事が無い。
「む?どうした、どこか打ったか」
「いや、大丈夫。だけど一つはっきりした・・・」
何のことか分からず待つこと数秒顔を上げた綾子が一言。
「アンタの運転する物は今後一切信用しない」
寿命が幾らあっても足りやしない、などと文句を言いながらも自転車からおりてふらふらと弓道場のほうへと向かっていく。
荷物は後ろに残っているということは持って来いということか。まったく人使いの荒い。
まあいい、そんなことよりも今は出席日数のほうが先だ。
早朝の校門の喧騒の中、俺は自分と綾子の分の荷物を持って弓道場へと向かった。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
SIED 士郎
朝、学校にいつもよりも早く着くとなにやら校門のほうが騒がしくなっていた。
人だかりの中に見知った顔が居たので声をかけようとしたら向こうも気が付いたらしい。
「おお、衛宮か、今日はまた早いな」
「ああ、なんとなくな、ところで何の騒ぎなんだ一成」
見知った顔ー−一成は簡単に説明してくれた。
「何でも先ほど間桐の、もちろん兄のほうだがやつが自転車に撥ねられ重傷ををったそうでな。今さっき救急車で運ばれていった」
は?自転車に撥ねられた?なんでそれだけで重傷なんて負うんだ?
一成が無言で人の輪の中をさす。
覗き込むとそこは、
ラフレシア・アンブレラ
が、見事に咲き誇っていた。
うわ〜い、どれ位やばい怪我か一発で分かった。
「ところで一成、犯人は見つかったのか」
今の光景は意識の外に必死に追い出す。
「いや、目撃者達が言うには速すぎて誰だったのか判らなかったそうだ」
「速すぎっていっても自転車だろ、判らないことも無いだろうに」
自転車じゃどうやっても20キロ程度だろうし、それぐらいなら顔は判らなくても特徴ぐらいは判るはずだ。
「いや、正確に言うと思い出せんそうだ。実際に俺も見たのだがな、さっぱり思い出せんのだ」
思い出せない、そんなことがあるのか?それも何人もの人間がいてその誰もが思い出せないなんて。
「まあ、思い出せんモノはどうしようもないしな。それに、こういったことに関しては警察の仕事だ」
確かに、こういったことは俺たち学生がどうこうできるもんじゃないしな。
何か引っかかるものがあるが、とりあえず、教室にでも行くか。
「じゃあな一成、また後で」
「うむ、ではまた教室でな」
まだ集まっている生徒達を追い散らしにでも行ったのだろう、生徒会長も大変だ。
あれ?そういえば慎二のヤツが重傷ってことは入院するんだろうな、桜はどうするんだろう。
・・・・・まあ俺が考えても仕方の無いことか。
それよりも美綴に頼まれたのをどうするかだな、いくらかは食費を貰ったが、あれで藤ねえの舌と胃袋を満足させるものを作るとなると
ぎりぎりだな。
それに、あいつ絶対に俺に何かしら報復してくるだろうし、はあ〜気が重い。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
SIDE ?
結果から言おう。今日の俺の朝の行動は全て無意味になった。
原因は朝撥ねた間桐のヤツが大げさにも救急車で運ばれたせいだ。
まったくあいつは人に迷惑しかかけられんのか。
「で?こういう時は俺の出席日数はどうなるんだ」
「幾らなんでも減らしゃしないわよ、あたしだって鬼じゃないんだから」
なら、はじめからこんな強硬手段なんぞとるなよ。
とりあえずは今日のところはカウントは無しでいいらしい。
こ こ
なら弓道場に居ても意味が無い、意味が無いのだが・・・
「なんでお前は準備してるんだ」
そう、何故か朝錬が無くなったというのに弓に弦を張って弓道衣に着替えている、おまけによく見ると今、弦を張っている弓は俺の弓だ。
おれの視線に気が付いたのか作業を止めずに返してくる。
「ん?これか、アンタ一年近く射ってないだろ、だから少しでも感を取り戻さないと後輩に笑われるぞ」
「後輩に笑われるかどうかはどうでもいいが、朝錬は中止になったんだろう、なのになんで準備してるのかと思ったんだが」
ああ、そのことか、と何か納得して答えた
「これは朝錬じゃなくて自主練、だから誰にも文句は言われないから安心しなよ」
ほいっ、と俺の弓をよこす、意地でも俺に射させる気だな。
いいだろう、ここまで来たのならやってやろうじゃないか。
さっさと終わらせてやる。
まず素引きで弦の強さを確認する、使い慣れた麻弦の感触とやや強めに張られた弦、ちょうどいい強さだ。
射位についてから射かたは覚えているかどうか確認するまでもなく、体は覚えていたようだ。
・
・ ・
ごく自然に弓を構え、的を両の目で『視』て矢が突き立つために辿る軌道を確認する。
後は自然に矢が離れて先ほど確認した軌道を通り的の中心に突き立つ。
あとはこれに微調整を加えて打ち続けるだけ、それだけを繰り返す。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・
「詐欺だ、なんで一年近く射ってないやつがどうやったら四回連続で皆中させられるんだよ」
「まぐれだろう、気にするな」
「普通まぐれでも28メートルも離れた的に連続で当てるのも無理があるぞ」
自分で射させといて不機嫌になるのはどうかと思うが。
「それより、お前は射ないのか?」
「今の見た後じゃやる気なくすよ、ったく、放課後の練習のときは手加減してやれよ。
あたしでこれなんだからほかの部員が見たら何人か止めそうだし」
無茶を言う。だが主将公認で手が抜けるんならまあよしとしよう。
ガラッ
不意に、弓道場の引き戸が開かれる音が聞こえた。
確認すると長い髪の女子、見覚えがあるような気がするが、誰だったか。
「おはようございます、主将、すみません遅刻しました・・・」
「ああいいよ桜、どうせ今日は朝錬中止だし、って桜、あんたここに来てていいの?」
髪の長い部員、桜といえば――確か間桐の妹だったか――え?と何のことかわからないといった顔をしている。
「今朝、学校の前で自転車で引かれて重傷だそうだが、連絡は行かなかったのか?」
「え?は、はい家にいなかったもので」
「間桐のヤツには藤村が付いていってるから何かあれば学校のほうに連絡が来るだろう」
「え?ええっと、失礼ですけどどなたでしょうか?」
「こいつはあんたの先輩だよ、まあ一ヶ月も居なかったせいで二年にも忘れられてるけど」
「あっ、そういえば朝、藤村先生が先輩と同じ位上手い人が戻ってくるって昨日いっていましたけどこの方だったんですね」
なぜそこで藤村が出てくるんだ、それに先輩というのは・・・
「ああそうだよ、衛宮と同じか下手すりゃそれ以上の腕っていったらこいつしか居ない」
「そんなに凄い人なんですか、あっ、私弓道部の一年で間桐
桜といいます、よろしくお願いします」
「ああ、よろしくそういえばまだ名乗ってなかったな、俺は・・・
荒耶 空戒」
つづく・・・
拳鬼さんから頂きました「Fate/stay night 欠陥魔術師」の序章、いかがでしたでしょうか。
「Fate/stay night」というゲームの二次創作で、多少他の作品ともクロスしているらしいです。
キャラクター達の掛け合いが良く書けていると、蒼夜は思いました。蒼夜はその辺りの事が苦手なので、少々うらやましかったり。
何はともあれ、このサイト初の頂き物です。管理人としては嬉しいかぎりです。
この作品を読んで、「続きが読みたい」と思ったら、掲示板に感想を書き込んでください。
物書きにとって、感想はどんなドリンク剤よりも効果があります。どんなことでも良いので、感想を書いてくださると嬉しいです。