荒耶邸

 

居間にそれはあった。

何を混ぜたらそうなるのかが解らない紫色のどろどろとした液体

その中に本当に野菜だったのかどうかも怪しいナニか

どんな炊き方をしたのか解らない真っ赤なご飯

鯵の干物だったものも見る影もなく消し炭と化し

唯一まともなものは味付け海苔と梅干のみ

その食卓を囲むのは三人の女性と一人の男性                                                                                      

 

「キャスター・・・・貴様、我にこれを食わせようとでも・・・・」

「嫌なら食べなくて結構、そもそもなんでこの家に貴方達がいるのよ」

「それは好きなだけ居てもいいという家主の許可を貰ったからです

ねえ、クウカイさん?」

「どうでもいいが食事は黙って食べろ」

 

そういってなんでもないように黙々と赤い飯を口に入れ

紫色の液体を流し込み黒い炭の塊を噛み砕き梅干と海苔で赤い飯を食らう男、荒耶空戒。

この男、飯は美味いほうがいいが不味くても食えればいいという思考の持ち主

故に、例え生肉だろうが消し炭だろうが気にしない。

恐らく毒を盛られたとて気にせず皿まで喰らうだろう。

 

「ええい!少しはまともな食事はないのか!?」

「う、うるさいわね!前のものよりまともになってるわよ!

現に空戒様は何も言わずに食べてくれているじゃないの!!」

「こやつと同じにするな!!こんな何でも吸い込む星の人のような男と!!」

「メディア、ギルガメッシュ喧嘩なら食事の後「その食事のことで揉めておるのだ!!」・・・・そうか」

 

それきり黙って食事を再開する空戒(家主)なぜかヒエラルキーは低い

性格的なものもあるのだろうがこの家の住人の勢いに負けているのが原因か

 

「それはそうと、カレンのやつはどうしたんだ」

「あ、そういえばさっきどこかへ言ったような・・・」

「逃げたな、小娘め!!」

 

ギルガメッシュからしたら目の前のタベモノ?から逃げたとしか思えなかったのだろう

ただし、自分も隙あらば逃げ出そうと考えていたのだがメディアと口論になり

その機会を失ってしまったようで気が立っているようだ。

 

「誰が、なにから逃げたのかしら?」

「ぬあ!何処からわいてでおった小娘!!」

「少々台所のほうへ私の食事を取りに」

 

キャスター、――メディアとギルガメッシュがいい争いを始めた直後から居間を離れたらしいのだが、

誰も気が付かなかったようだ。

恐ろしいことに仮にもサーヴァントの二人と魔術師に気配を悟られずに行動したらしい

下手な暗殺者よりも恐ろしい技量である。

 

「食事?貴様まさか・・・」

「先ほどソレが運び込まれる前にお湯を注いでおいたので」

 

そういってカレンは手に持っていたもの、カップラーメンをそれはもう

美味そうに、少し残っていたスープ―恐らくわざと残した―を一気に飲み干す。

 

「ご馳走様でした」

 

ブチッ!

 

「小娘!!そこになおれぇ!!」

 

ギルガメッシュが切れた。

その瞬間、空戒は既に空いている皿の上にギルガメッシュとメディアの分のタベモノ?を乗せ

食器の安全を確保、隣で既にこの間作った防御用の結界のなかに避難しているキャスターへと渡し

自分は食後に入れたお茶のみを持って戦線離脱。

 

「ご馳走様、でわ行ってくる、後のことは頼んだぞメディア」

「はい、何処まで出来るかわかりませんが家の修理は任せてください」

 

既に壊れること前提である。

二人のやり取りが妙に慣れていることから既にそれは日常茶飯事なのだろう。

 

「ああ、苦労をかける・・・・」

「いえ、もう慣れました・・・・」

「「はぁ」」

 

近いがどこか遠くで破壊音が響き渡った。

 

「あいも変わらず騒々しい」

「貴様、何処に居た佐々木小次郎」

 

いつの間にか縁側に茶をすすっている着物姿の男が座っていた

 

「いやなに、私はもとより食事なぞ摂らなくとも平気なのでな」

 

ようはとばっちりを受けたくないがために最初から避難していたということだろう。

食事なぞ摂らなくてもいいと言いながらその手に確りと湯呑を持っているのが何よりの証拠。

 

「アサシン、貴方こんな所でのんびりとお茶なんか飲んでないでさっさとあの二人を

止めてきなさい、何のために呼んだと思ってるのよ!!」

「無茶を言うな、私があの中に入ったところで聖骸布で雁字搦めにされて

剣やら槍やらで串刺しにされるのがおちだ」

 

我関せずの姿勢を崩さないアサシン、佐々木小次郎

彼はもともとキャスターが自分の警護のためにこの家の蔵の中にあった刀、

備中青江を媒体として呼び出されたサーヴァントである

キャスターの手で召喚されたため、正式な英霊ではない。

そのためにこの時代に定着させるために荒耶邸の庭に生える松の木を依代とされたため

この家の敷地内から出ることは出来ない。

故にギルガメッシュとカレンの起こす騒動を一番よく見ているため

自分が手を出せばどうなるかがよく分かっている。

 

「この役立たずのなまくら侍!!」

「どうとでも言え、一度死した身とはいえ私はまだ命が惜しい」

 

脇に置いた急須から茶を注ぎ再び飲み始める。

ふと何かに気が付いたのか空戒のほうに向くと一言。

 

「のんびりしていていいのか空戒殿、そろそろ時間ではないのか?」

「そうだった、すまんが二人とも、無理はせず近所に迷惑のないようにな」

「なかなかに難しいが、承知した」

「はい、頑張ってみます」

 

その時、再び何かが壊れる音が響いた。

 

 

穂群原学園 校庭

 

いつもの騒ぎから逃げるように、というか逃げて学校にたどり着くと

一人の生徒が校庭で険しい顔をしていた。

その生徒の横に赤い服を着た男が立っていた。

 

「こんな所でなにを険しい顔をしているんだ、言峰

っ!誰が言峰よ!!誰が!!」

「お前の他には二人しか知らんがな」

 

そのうちの一人は現在空戒の家に居候中、もう一人はここ最近は夜中にバイクで走り回っている。

 

「それよりも、その赤い服を着た黒いのはお前のサーヴァントか」

「なっ!・・・・・忘れてた、こいつも一応魔術師だった

「何か言ったか、言峰

「だーーもう!!いい加減それは止めなさいよ!!」

 

思いっきり地が出ているがそんなことを気にしていられないほど空戒の言峰という呼び方が嫌なのだろうか。

すでに親は言峰綺礼だと法的に認められてしまっているためどうにもならないのだが。

 

「何のことか分からんが凛、こいつは何者だ」

 

と、今まで黙ったままだった赤くて黒いのが聞いてくる。

空戒が魔術師であると分かってか話しに入ってくる。

 

「ああ、こいつは荒耶空戒ってゆう魔術の使えない魔術師よ

だから完全なノーマークで忘れてたわ」

「確かに、俺は自分の力だけでは魔術は使えん、だがサーヴァントのマスターにはなれたがな」

「なんですって・・・・」

 

不意に目を細め警戒を露にする遠坂、否、言峰。

当たり前だろう、魔術を使えなければそもそも召喚なぞできんのだから。

ただし、何事にも例外はある。

 

「アンタ、オルクのサーヴァントを盗ったのね」

「人聞きの悪いことを、サーヴァントの承諾を得て行った契約だ、ついでに言うと

その時オルクは既に首しか残っていなかったがな」

なんてこと・・・・あいつは仮にも協会から送られてきた魔術師よ、それをアンタが殺ったての」

「弱かったからな、それにあの程度の輩なら他の魔術師と戦闘になればすぐにリタイアするだろう」

「もう済んだことはいいとして、そうなるとアンタ今は聖杯戦争に参加するマスター

ってことでいいのね」

「そういうことになるな、もっとも令呪はないがな」

 

はぁ〜、とかなり深いため息をつかれた

まあ、普通はこんなことをもしかしなくても敵になる人間に普通は言わないだろう

 

「もういいわ、進んで自分の弱点を晒す、そういうヤツだったわね・・・・・」

 

ふむ、普段俺がどう思われているのかがよく分かるな。

・・・・・・遠回しにお前は馬鹿だといわれたような気もするが。

 

「それじゃ、一応聞いておくけど、この学校に張ってある結界はアンタの仕業」

「違うな、確かに俺は結界に詳しいがここまで禍々しい物は逆立ちしても出来ん

かといって俺のサーヴァントも結界を張ることは出来るがここに張るメリットがない」

 

そもそも魔術自体使えんのだが、と肩を竦め

さっさと校舎の方へと空戒は歩いていこうとする。

 

「ちょ、待ちなさい!!まだ話は・・・・」

「そろそろ一般生徒も増えてきた、早く猫を被ったほうがいいんじゃないか、言峰

「わたしを言峰と呼ぶなーー!!」

 

 

穂群原学園 2−C教室 朝

 

 

「荒耶殿〜救援を願うでござるよ〜」

「教室に入るなりいきなりなんだ後藤」

「実は、某昨晩『滅殺!仕置き人』シリーズを見ていて、その〜」

 

なるほど、そういうことか。

まったく、人を頼りにするのは自分のためにならんということを教えてやらねばな。

 

「1ページ百円、今なら5ページで千円だが、それで良いか」

「高っ!!しかもそれじゃ計算が合わんでござるぞ!!」

 

これでも友達価格で格安になっているんだがな。

例としては慎二が相手の場合は0がもう一つ二つ増える

金はあるところからはとことん搾り取るのが俺の主義だ。

 

「嫌ならば他を当たれ、例えば衛宮とか士郎とか柳洞とか一成とか」

「四人っぽく聞こえるしか二人しか居ないでござるぞ!ってか友達少ないでござるな!!」

 

む、失礼な他にも居るぞ・・・・・あれ?学校の友人が殆ど居ないぞ・・・

 

「なんか腹が立ってきた、やっぱり他を当たれ・・・」

「そんな殺生な〜宿題を見せてくれれば美綴殿からの伝言をお教えするでござるから〜」

「なに?何のことだ」

 

物凄く嫌な予感がする、それもここ最近はなかった類の

 

「代金はさっき言った額の半分でいい」

「どっちにしろ1ページ百円払うのと同じではござらんか・・・?」

「いいからさっさと言え」

「うう、分かったでござる、『放課後、弓道場の掃除は頼んだ』とのことでござる」

 

嫌な予感的中・・・・・今日の部活、さぼろうかな

 

「『あと、さぼったら単位がアウトだぞ〜』とも言っていたでござる、それでは〜」

 

・・・・・・・・藤村に言って応援をよこさせるか。

それよりも衛宮辺りなら『喜んで』手伝ってくれるだろう、きっとそうだ

昼休みにでも頼んでみるか、誠意を込めて。

そのためにもまずは藤村からか、こっちはHRの後でいいか。

将を欲するならばまず馬を射よ、だ。

 

 

穂群原学園 弓道場 放課後

 

昼休みに誠心誠意込めて頼み込んだら『喜んで』請け負ってくれた衛宮の協力もあって

予定よりもだいぶ遅くなってしまった・・・・・まあ、他の部員達を返したのは俺だが

よもやあそこまで徹底的にやることになるとは思わなかったな。

 

「なあ、空戒、今何時か分かるか?」

「少なくともこの時間じゃコンビニぐらいしかやっている店はないな」

「そうか、そんな時間か」

 

妙に疲れたが掃除は無事に終わったんだ、これだけやればさすがに文句はあるまい

それにしてもあの海草め、たかが60Km程度の自転車に轢かれただけで

学校を休むとは軟弱者め、元をただせばヤツが今日休んだせいだ。

 

「まあ、なんだ、衛宮、悪かったなこんな時間までつき合わせて」

「いや、いいよこれ位なら、そういえばここの鍵はどうするんだ?」

「俺が返してくる、職員室への侵入は慣れてるからな」

 

年に何度かは不法侵入しているんだ、それにあの程度の鍵

開けるまで二秒と掛からん

 

「なにしてたんだ」

「試験のときとかな・・・・・まあ、気にするな」

「そういうのはどうかと俺は思うぞ」

「気にするなと言った、それに、進入されたくないのなら

トラップの十や二十は仕掛けておけばいい」

 

そもそもこの学校はやたらと穴がありすぎる、これでは泥棒さんいらっしゃいといっている様なもんだ。

よって悪いのは俺ではなく学校側だ。

 

「そんなことよりも、早く帰らないと藤村が暴走するんじゃないか?」

「もう遅い、でも一品食事に増やせば誤魔化せる」

「随分と単純だな、だがもし誤魔化せなかったら俺の名前でも出せば

被害は半分に減るぞ」

 

まあ、気休め程度にだろうが

 

「多分大丈夫だ、それじゃ、俺は帰るよ、お前も早く帰れよ」

「そうさせてもらう」

 

そういって弓道場の前で衛宮と別れてすぐ、不意に裏の林から人の気配がした。

 

「何の用だ、こんな所に」

「人がわざわざ面白いことを教えてやろうと言うのに随分な言い草だな」

 

聞き慣れてしまった傲岸不遜な声の持ち主――ギルガメッシュ――はさも面白そうに

その口の端を持ち上げている。

 

「先ほどキャスターが襲撃を受けた」

 

それで?と無言のまま先を促す、こいつは人が慌てるのを見て楽しむようなやつだ

それにこの程度のことでは取り乱せない、今は戦争中なのだから。

 

「まあ、アサシンめが追い払ったらしいが、襲ってきたのはランサーとそのマスターらしい」

 

青タイツとバゼットか、だがあそこは仮にも魔術師の工房、しかも今は

キャスターが更に改良を加えられている。

そんなところに何の策もなく強襲してくることはない、つまり様子見か

 

「それで、本当にわざわざそれだけを伝えるために来たのか、お前は」

「そんな訳あるまい、まだ続きがある、ついてこい」

 

さっさと一人で校庭のほうへと歩いていくギルガメッシュ、まるで俺が

後に歩くのを当たり前のように歩いていく、まあ、ついていくのだが。

 

 

穂群原学園 校庭 深夜

 

 

赤と青の二色の男達がその手に持つ二振りの刃と槍で互いに必殺を狙い

神速で切り結んでいる、その様は人外の業。

 

「あの槍を持った青い全身タイツはランサーとして、あの赤いほうの男は

確か朝に遠坂が連れていた男か」

 

よく見れば二人の男から少し離れた所に見覚えのある人影がいる、恐らく遠坂だろう。                                           


                                                       ワタシ
 
「剣を使ってはいるが彼奴はセイバーではない、我と同じ、アーチャーとして呼ばれたのであろうな

それで?アーチャーが召喚された今、後はセイバーだけだがどうする?」

 

こいつならばこの場で二人まとめて相手取れるかもしれん、だが・・・

 

「いや、まだ様子見だ、セイバーは召喚されてはいないがそのマスター候補が誰なのか

分からん今動いてもあまり利益はない、それに互いに喰いあってくれれば楽が出来る」

「それは本音か?」

「さあ?俺にもわからん。そんなことより、動くぞ」

 

 

ランサーが宝具を使おうとでも思ったのだろう、間合いを広く取り

周囲の魔力が渦を巻いている様が見て取れる。

が・・・・

 

「誰だ!!」

 

突然ランサーがあらぬほうを向いて怒鳴りつけた

恐らくは一般人でも迷い込んだのだろう、校舎の中へとかけていく影が居る

運の悪い・・・・・って、こんな時間こんな場所に普通一般人は居ない

まさか・・・・あの馬鹿さっさと帰ればよかったものを

 

「行くぞ、ギルガメッシュ」

 

俺は衛宮と思われる乱入者が駆け込んだ校舎の中へと向かって歩いていった。

 

「おい!待たんか!・・・・まったく、ほうっておけばいいものを・・・」

 

呆れながらも確りとギルガメッシュは後についてきた。

最近分かったことだがこいつは文句を言いながらも良く言えば素直

悪く言えば単純なので意外と扱いやすい。

 

 

穂群原学園 廊下 深夜

 

「おい、あの乱入者を追いかけてどうするつもりだ」

「魔術師が一般人に魔術の存在を知られた場合どうするか、知っているな」

 

そういった途端ギルガメッシュの目が細まる。

魔術が一般人に知られるようなことになった場合とられる行動は二つ

一つは目撃者の記憶を改竄すること、これは普通の魔術師ならば造作もないことだが俺には出来ない

俺に出来る魔術など内功の応用で体中に刻まれた真言に魔力を通わせ自分の身体能力を上昇させる程度だ。

そうなれば俺に残った選択肢は一つ

 

「わざわざお前がやらずともあの小娘がどうにかするであろうに」

「ああ、だがさっきの乱入者がもし衛宮だったとしたら話は別だ」

「どいうことだ?」

 

わけが分からない、というような顔で話の続きを促すようにこちらを見てくる。

今ので分かったらそれはそれで凄いと思うが。

 

「見間違いでないのならヤツの手に令呪があった」

「なんだと、そうなるとその衛宮という男のサーヴァントは・・・・」

「セイバーだろうな、他のサーヴァントは既に召喚されマスターも判明している」

 

 

まだセイバーは召喚されていないがこの際そんなことはどうでもいい。

始めは全てのサーヴァントが揃うのを待って適当に喰い合いをさせるつもりだったが

目の前に無防備な獲物が自分から出てきたんだ、それを逃すつもりはない。

 

 

穂群原学園 廊下 深夜

 

 

欲を言えば衛宮のことを遠坂には知られずにさっさと始末したいのだが

そうも言っていられなくなった。

その理由は今目の前に居る

 

「よう、まさかこんな所でまた会えるとは思わなかったぜ」

「白々しい、先ほどこのギルガメッシュに聞いたが人の留守中に俺の家の住民を襲ったそうだな」

「今は聖杯戦争の最中だ、隙を見せたから襲ったまでだ」

「道理だな、それはそうとそこを退いてはくれまいか」

「悪ぃが俺のマスターの命令でな、さっきの乱入者の始末をつけるまで誰も通すなってな」

 

ランサーのマスター、バゼット・フラガ・マクレミッツか、彼女ならば

衛宮の持っている令呪を確認すれば確実に始末してくれるだろう

しかし、一度定めた獲物を横から取られるのは癪に触る。

 

「ギルガメッシュ、こいつの相手を頼む。俺はこいつのマスターの所へ行く。

恐らく後から遠坂と今回のアーチャーも来るだろうが、その時はさっさと切り上げろ」                                              
                    
  ワタシ
「貴様、さっきから聞いていればこの我に随分と偉そうな口を利くではないか。
        
  ワタシ
よいか、貴様は我の下僕だということを忘れてはおらんか」

「いつでも教会に帰ってもいいんだぞ。ただし、あの言峰が一週間以上も無断外出している貴様とカレン

について何も言わないとは思わんがな」

 

最近、夜になると若い男が何人も襲われているという事件、間違いなくあれは言峰だ。

あんな状態の言峰のところへ帰るのは冬眠から覚めた熊の巣穴に生肉をぶら下げて入るようなものだ。                                                            

                              ワタシ                                                                                                         「さあランサー、しばしの間我の暇つぶしの相手をしてもらおうか」

「テメエ、この間といい今回といい随分切り替えが早いな、おい」

 

随分とのんきに会話していたがその間お互いに隙をうかがい続けていた、その時

ガラスが割れる音と共に衛宮のものと思われる悲鳴が聞こえた。

好機!!

 

瞬間、思考を切り替える

両足に魔力を流し込み筋力のリミッターを取り除き全力で廊下の壁を駆け

ランサーの背後に回りこむ。

 

「ッちぃ!行かせるかッ!!」                                                                                                                                                                                                                                                       ワタシ                                                                                                                                      「我のことを忘れてもらっては困るぞランサー!!」

 

背後から行かせまいとランサーが振り向くがそれに対してギルガメッシュが次々に刃を飛ばす

さすがにそれは無視できないのかランサーも目標を切り替える。

 

「ふん、たかが番犬の真似事もできんとわな、クランの猛犬の名が泣くぞ」

「ほざけ!!上等じゃねえかアンタ上等だよ、いいぜ、相手してやるよ

受けるか、我が槍を」

「面白い、見せてもらおうか光の御子の槍捌きというヤツを」

 

ランサーがギルガメッシュに飛び掛ろうかというその刹那

両者の間の空間がドンッという音と共に爆ぜた。

 

「!?人が楽しもうって時に横槍入れるたァいい度胸じゃねえか、弓兵が」

「できるならまとめて射殺してやりたかったんだがな、最近の犬は随分とこらえ性があるようだな」

「テメエから先に始末してやってもいいんだぞ」

「できもしないことはあまり言わないほうがいいぞランサー」

「その言葉、そっくり返してやらァ!って、うおぁ!?」

 

新たな獲物に飛びかかろうとしているランサーの目の前に一本の赤い槍が突き立っていた

それは彼がよく見慣れたものだった。そしてそれを放ったものは金の髪を逆立てている。

どうやら無視されるのが気に食わないようだ

 

「さっきから聞いておれば、人を完全に無視するとはいい度胸だ

この下郎ども、そんなに望ならば今この場でまとめて・・・!?」

 

相手をしてやろうと、続けようとするも遠くで何かが破壊される音が響き中断された

 

「ああ?うっせえ、こっちだって今2対1で・・・・・チッわぁったよ、退きゃいいんだろうが

ったく、悪ぃが今日はここまでだ、次は必ず殺る」

 

ランサーは今まで背にしていた通路の奥

己のマスターと空戒の居る場所に向かって去っていった。

それと入れ違うようにアーチャーのマスター、遠坂凛が追いついてきた

 

「アーチャー!ランサーはどうしたの!?」

「逃げた、だがそれとは別の敵ができた」

「ふむ、相手をしてやりたいのもやまやまなのだが、こちらは目的を果たせたようなのでな

退かせてもらうとしよう」

「あ、ちょっと!待ちなさいよ!!」

 

ギルガメッシュの後を追おうとする遠坂の目の前に

ジュースの缶よりもやや大きめの円柱が転がってきた。

 

「リン!!離れろ!!」

 

アーチャーの警告は一瞬遅く、周囲は音と光に包まれた。

 

 

穂群原学園 廊下 深夜

 

 

ランサーを抜いて駆け抜けてから数秒もしないうちの目標の人物

衛宮を見つけた、もう一人、おそらくはランサーのマスター、バゼットと対峙している

元より、俺には気配も魔力も無いに等しいためまだ気付かれてはいないようだが

油断は出来ない、足音を消し、空気を動かさず、影を映し出さないように

衛宮の背後に回りこむ。

思考の切り替えはとうの昔に出来ている。

普段の思考ならばこういう場合僅かながらも躊躇してしまうのだろうが

今の思考ならばなんら躊躇などはしない、今目の前にあるのはただの標的にすぎない。

腕に溜めておいた力を指先の一点で解放する。

 

ズブっと馴染みのある音と手ごたえを感じた。

衛宮の背中のほぼ中心、そこに手が埋まり胸から突き出ている事は確かめるまでも無かった

つい先程まで弓道場を一緒に掃除していた友人はこの瞬間にその命を絶たれた

 

「な!?貴方は!」

 

バゼットはこちらを見て驚いているようだが以前会った覚えは無い。

驚いているバゼットのことなど気にも留めず衛宮に刺さったままの手を引き抜く。

返り血を浴び手いるがいまさらその程度の血など気にしない。

突き刺したそのときに既に肘から先は血塗れになっているのだから

 

「バゼット・フラガ・マクレミッツ、こちらに害意は無い、コレの始末はこちらでつける

この場は退いてはくれまいか」

「断ります、その少年の始末をつけた後退こうとは思いましたが、貴方がいるのならば

話は別です」

 

何故だ、俺個人とは何の繋がりも無いはずなのだが

 

「貴方がまだ活動しているという事はまだ彼の者はまだ生きているという事です

応えなさい、貴方のマスター、荒耶宗蓮はどこにいるのですか」

 

何のことを言っている、荒耶宗蓮、何故そこで俺の養父の名前が出てくる。

考え込んでいるとなにやら一人で納得しているバゼットがいた

 

「やはり、人形に聞いても意味はありませんか」

「バゼット・フラガ・マクレミッツ、何を勘違いしているのかは知らんが荒耶宗蓮は俺の養父だ。

だが、俺は人形ではない」

「魔力も無い気配も無い、それでいて人を超えた戦闘力を持っている。

それを魔術師の人形といわず何を言うのです」

 

戦闘力?俺はバゼットと闘った覚えは無い、もし今のを見てそう決め付けるのも早計というものだろう

 

「一つ確認する、俺は貴方と戦った記憶は無いのだが」

「六年前、屍を使い魂の再現を謀った魔術師の庭で協会と教会の執行者を私ともう一人を除いて

皆殺しにしたのは貴方だ」

 

解った、あの時は養父が俺の完成度を試すといって執行者たちと戦わせたんだったな

結局、そのときの戦いで左腕と両足を人形のものと取り替えねばならないほどの怪我を負い

失敗作の烙印を押されたのは覚えている。

もっとも、その後には違う目的に使うために生かされたのだが

 

「思い出した、あのときの魔術師か、だが勘違いをしている、俺は荒耶宗蓮の人形ではなく

養子、荒耶空戒だ、それに養父はとうの昔に死んでいる」

「確固たる証拠が無い、荒耶宗蓮の工房は潰したが肝心の荒耶宗蓮の死体は見つかっていません

それに、貴方が荒耶宗蓮の養子だというのならば彼の跡を継いでいる可能性がある。

それは協会からしても驚異となります」

「問答無用、というやつか、だが良いのか、俺以外にも魔術師はいるぞ」

「そんなに時間をかけるつもりはありません、すぐに終わらせます」

 

そういうなり視界からバゼットの姿が消えたかた思うと

死角となっている左側からの一撃が来る、ほとんど感覚で交わすも

さらに追撃の左拳が下方より迫る、最初の一撃とは違い今度は完璧に捉えている。

その拳を捉えようと右腕で無造作に掴みかかろうとするが、

フェイクか!

そう思った瞬間後ろに跳び左側から迫っていた蹴りを避ける。

風圧で髪が数本と制服の端が切れた。

だがそんなことに構っている暇は無い、すでに間合いを縮められ左右の拳打が襲い掛かってくる。

何とかガードするもガードの上からでも殺しきれなかった衝撃が伝わる。

衝撃の大きさからして手に硬化のルーンでも刻んでいるのだろう。

既に制服の左右の腕は無くなり、生身の右腕は皮膚が破れている。

しかし、そう何度も喰らえば慣れてくる。

左のガードを緩めたところに期待どおりの一撃が加えられようという一瞬の遅滞。

少なくともそれを見逃さない程度には。

バゼットの拳が左肩に触れる瞬間にその腕をガードに使っていた左腕で掴むと

そのまま掴んだ腕を引き、無理やりバゼットの内懐に入り込む。

踏み込んだ右足を起点に全身を捻りこみ爪先から踵、膝、腰を経由し力を溜める

全身の筋肉のベクトルを合成、一片のロスもなく、まったく同時にバゼットと触れている

右肩、その一点に集中する。

透徹した頸、いかに強化されていようと衝撃は緩和できない。

渾身の力を叩きつける。

 

「がはッッ!!」

 

ズンッ!!という重い手応えと共にバゼットは教室の壁を突き破り派手な音を立てながら吹き飛んでいく

しかしこちらもただではすまなかった。

 

「やってくれる、あの一瞬で反撃してくるとは、流石としか言いようがないな」

 

踏み込んだ際に無防備となった右側面を強打され完全には威力を伝えられず突き抜けてしまった。

だがその威力は決して無くなった訳ではなく、確実にダメージを与えたのは確かだ。

 

「やはり、一筋縄では、いきませんか、それにその腕、何かを隠していますね」

「自分の切り札を相手に知らせる馬鹿はいないと思うが」

「最もです、それに、貴方には大したダメージは無い様に思われますが

それも切り札か何かを使ったのですか」

「くどい、同じ答えを返させるな」

「そうですね・・・・・今日のところは退きます。

いずれにしろ今の状態では良くて相打ちですから」

 

退いてくれるとありがたい、もう右腕の感覚などほとんど無い

このまま戦ったらとてもじゃないが分が悪すぎる。

 

「それでは、その少年の遺体の処理はそちらにお任せしてもよろしいのですか?」

「元よりそれが目的だ、貴方と戦うのはこちらとしては想定外なのだから」

 

その後は何も無かったかのような確りとした足取りでバゼットは去っていった。

その直後、背後から凄まじい音と光が迸った。

ギルガメッシュか、という事は遠坂はもう来ているな。

既に衛宮は始末した、このまま放っておけば明日の朝は酷い事になるだろうな。

とりあえず、言峰のやつに連絡しておくか、聖杯戦争の目撃者を一人殺害

氏名、衛宮士郎、穂群原学園の生徒

それを伝えようと制服の内ポケットから携帯電話を取り出そうとして・・・・・

出来なかった、自分では動かしたつもりでも右腕が思いどうりに動かない。

仕方が無いので左手で取ろうとするも無駄だった。

既に携帯電話が携帯電話の形をしていなかった。

 

「仕方が無い、職員室のを借りるか」

 

 

穂群原学園 廊下 深夜 20分後

 

 

無い、何も無い、血の跡はおろかそもそもの死体が無い。

ただ連絡を入れて帰ってくるだけの時間で綺麗に片付けられている。

ただし、教室の壁とガラスはそのままで、よく見れば廊下は雑巾で拭いたような跡がある。

まさか遠坂のやつがいらん事をしたのか。

 

「ギルガメッシュ、居るのはわかっている。ここで何があった」

 

背後に馴染んだ気配があるのは気がついていた。

しかし何故未だに居るのかはわからないが

 

「あの小娘が虫の息だった雑種の小僧を甦生した、それで、どうする?

小僧はさっさと掃除だけして帰ったようだが」

「追ってくれ、悪いが俺は治療の方に専念したいのでな」
                        
ワタシ
「うむ、承知した、確りと養生するが良い我に任せておけば万事問題が無い」

 

待て、何かがおかしい、何故こんなに素直にこちらからの要望を聞き入れる

普段ならば何やかやと文句を言ってくるはず。

 

「何を隠している」

「な、ななにも?何も隠してなどおらぬぞ」

 

妙にどもりながら後ずさるギルガメッシュ、その背から妙な声が聞こえた

 

「にゃ〜?お前、そんなものどこで拾ってきた」
                
ワタシ
「し、知らぬぞ、い、今のは我がだな・・・」

「飼ってもいいが世話は自分でしろ、それとそいつをよこせ」

「断る!!貴様、エンキドゥをどうする気だ!さては喰うつもりか!?」

 

失敬な、いくら俺でもそこまで非道じゃない、それに猫よりは犬の方が美味い

 

「先につれて帰るだけだ、そいつお連れたままだとまともに動けんだろう」

「本当に連れ帰るだけか、途中で捨てたり喰ったりせんだろうな!?」

「しないから、さっさといって来い」

 

もの凄く不安そうな顔をして後ろ手に持っていた金色の毛玉を渡してきた。

受け取るが何故か中々手を離さない。

 

「離せ、コレでは持ち帰れん」

「確実に連れ帰ると誓えるか?」

「誓おう、もし帰ったときにコレが居なかった場合は何をしようがかまわんぞ」

 

それこそ俺の命ともいえる酒の数々を全て溝に捨てようと

さすがにそこまで言っては信用しないわけにもいかなかったのか

しぶしぶながらも衛宮の追跡に向かった。

途中で何度も振り返り、エンキドゥを頼むと繰り返しながら。

 

「まったく、運がいいんだか悪いんだか解らん猫だなお前は」

 

にゃ〜、と暢気な声を上げ人の手の中で丸まる毛玉。

そもそもこいつは何でこんなところに居たんだ?

まあともかく、家の住民に猫アレルギーが居ない事を祈るだけか。

 

 

 

つづく・・・

 

士郎SIDEへ・・・