弓道場での一件の後、程なくしてHRの時間が近くなり、片づけをしてそれぞれの教室へ向かう。

その途中であまり会いたくないやつと会ってしまった。

 

「おはようございます、荒耶くん」

「・・・・・・おはよう、遠坂」

 

今日は厄日か・・・・・・

遠坂 凛、それを聞いて普通の学生が思い描くことは

成績優秀 眉目秀麗 運動神経も抜群で性格も良いと非の打ち所のないまさに完璧な女。

だが俺に言わせて貰えばそんなものはただの虚像に過ぎない。

 

「朝っぱらから人に仕事させてくれた礼ぐらいはしてもらうわよ」

「クッ!・・・了解した、今度菓子折りに山吹色の菓子でも包んで返そう」

「よろしい」

 

今の遠坂を見れば大半の学生連中は確実に今までの幻想を打ち砕かれるだろう。

自分が見たモノ全て夢であってくれと願うほどに。

 

 

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Fate/stay night

                                 欠陥魔術師

                         序章 第一節「あくまとの邂逅」

 

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SIED 空戒

 

 

くそ、迂闊だった少し考えればわかったろうに。

これで今月はもうかつかつだな、はぁ〜

 

「何やってんだ?空戒、そんなとこで」

 

今月の残り財産を考え少々鬱になっているところへ赤毛の少年、衛宮が話しかけてきた

こいつとは一年のときからの付き合いだが、結構気が合うこともあり数少ない友人の一人だ。

 

「いや、今月をどう生き延びようかと考えていたところなんだが、お前こそどうした」

「どう生き延びるか、ってお前どういう生活してるんだ・・・」

「春までは人並みの生活は出来たんだがな、まあ気にするな」

 

そう、春までは人並みに生活が出来た、ヤツに会うまでは。

 

「そういえばさっき話してたの遠坂だろ、お前知り合いだったのか?」

「知り合いといえば知り合いだが、出来るなら一生知り合いたくなかったな」

「どういうことだ? それ」

「聞くな。それよりもそろそろ教室に行くぞ。今日は藤村ではないからな、時間どうりに来るんじゃないのか」

 

確か俺が轢いた間桐の付き添いで病院に行ってるはずだ。

なら今日は代わりの教師が来るはずだ。

 

「ん? 藤ねえがどうかしたのか?」

「ああ、今朝自転車に轢かれた間桐の付き添いで病院に行ったぞ。何故か救急車に乗るときはしゃいでいたがな」

「ああ、それでか。なら今日は誰が来るんだ?」

「知らん、いけば分かるだろう」

 

キ〜ン コ〜ン カ〜ン コ〜ン

 

予鈴はさっき鳴ったからこれは本鈴か、ということはHRは遅刻か。

 

 

 

 

 

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 

 

 

 

「遅いぞ、荒耶、衛宮、二人とも遅刻だ」

「「すいません」」

 

教室に入ったら何故かA組の担任の葛木がいた。

 

「とりあえず、席に着けこれから連絡事項を伝える」

「「はい・・・」」

「本日早朝、間桐慎二が何者かに自転車で轢かれた。藤村先生はその付き添いで今日は午後まで来れないとのことで、

それに伴い、午前中に予定されている英語の授業は午後の倫理と入れ替わることになった。

間桐慎二のことで何か知っていることがあったら知らせるように。以上だ、日直」

「起立、礼」

 

葛木が教室から出て行くと、とたんにだらけたいつもの教室に戻った。

 

「いや〜流石に葛木殿だと藤村殿よりもつかれるでげすな〜」

「・・・・・後藤、お前昨日は何を見た」

 

俺の数少ない友人の一人、だが今だにこいつがよく分からん。

 

「それは秘密でげすよ、人には十や二十は知られたくないこともあるんでげすよ」

「ああ、そうか・・・それで、何か用じゃなかったのか」

「そうでげした、出来るなら英語のノートを貸してもらおうと思ったんでげす」

「そうか、ならばもっていけ。友人価格でまけておいてやる。一ページ百円のところを九十円にまけてやる」

「ひどっ! 今日は十ページもあるのに。せめて十円ぐらいにはならんでげすか!?」

「無理だ、嫌なら他をあたれ。今月は今さっきピンチになったんだ。恨むならやってこなかった自分を恨め」

 

結局、後藤は九百円を置いて泣きながらノートを写している。

すまん、後藤、弱い俺を許せ・・・。

さて、一時間目は・・・・国語か、藤村も午後までいない、ならば

 

「寝るか・・・」

 

わけの分からん夢なぞ見て今日は目覚めが悪かったからな、寝なおすには丁度いいか。

 

 

 

 

                                     ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 

 

 

 

俺が遠坂と知り合ったのは去年の春、二年に進級してからしばらくしてのことだった。

その日、藤村に用があるから職員室に来いといわれて職員室に行った。

だが藤村は俺を呼び出したことを忘れ弓道場に居るという。

あの時は腹が立ったが、そこで我慢せずに帰っていればあんなことにならなかったのかもしれない。

弓道場のやや陰になったところ、位置的には中が見えるぎりぎりの場所。

そこに見覚えのない女生徒が居た。

よく見てみるとその女生徒は弓道部の誰かを見ているようにも見える。

 

「なあ、あんた。弓道部の部員の誰かにでも何か用でもあるのか?」

 

ビクッ、と肩を震わせてこちらを振り返る。やたらと驚いたようだが、俺はそんなに驚くような顔してたか?

 

「いいえ。ただ弓道ってどんなのだろうなと思って見学させてもらってたんです」

「なら中に入ってみればいいだろうに。何でこんな所で見てるんだ? えっと・・・」

「遠坂です。二年A組の。あなたは?」

「二年C組の荒耶だ。・・・どうかしたのか? 遠坂さん」

 

俺が名乗ったときに女生徒――遠坂さん――は、一瞬険しい表情を浮かべたが、すぐに先ほどの顔に戻った。

 

「あっ、いえ、何でもありません。それよりもこの後、荒耶くんは何か用事とかありますか?」

「いや、特に何もないが。それがどうした?」

「ええ、少し話したいことがあるので時間いいですか?」

「別にかまわんが、今じゃ駄目なのか?」

「出来れば人に聞かれない所で話したいので」

 

わかったとだけ遠坂さんに伝え、とりあえずなぜ呼び出しをくらったのかわからない藤村の用件を済ませるために、

弓道場へ入っていった

背中に嫌な感じの視線を感じながら。

 

 

 

 

 

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 

 

 

 

 

              ヒュッ・・・タンッ  

 

 

                                    ヒュッ・・・タンッ               

 

                    ヒュッ・・・タンッ

 

 

 

 

弓道場の中は矢が弓から離れ的を射る音がよく聞こえる、先輩達が後輩へアドバイスをしたり、

お互いの射についてはなしあっている者も居る。

昨年の頭しか居なかったために同じ学年の弓道部にも忘れられているのか、やたらと視線を感じる。

しかも殺気まで篭っているのも在る。

・・・・・俺、何かしたのか? それとも部活中は部外者立ち入り禁止にでもなってるのか?

だとしてもそれは俺もせいじゃない、藤村のせいだ。

 

「お、ウチに戻る気にでもなったのか空戒」

 

不意にもう聞きなれた声が後ろから聞こえる。

 

「まさか、そんなことをすれば仕事が減るじゃないか。それはそうと顧問は居るか?」

「いいや、さっきアンタのこと話してたら、わすれてた〜、とか言ってどっかに走ってったまま帰ってこないけど。

なんか用でもあったの?」

「ああ、呼び出しをくらって職員室に行ったんだが、こっちに居ると聞いてな」

 

ここに居ないということはすれ違ったか。まあいい、居ないほうが悪い。

 

「待つのも億劫だ、俺は帰ったと伝えといてくれ」

「へいへい、ったく、あたしゃ伝言板じゃないっての」

「そうぼやくな、今度機会があれば何か奢ろう。じゃあ頼んだぞ綾子」

 

さて、藤村も用件がなんだったのかはわからなかったが、忘れるやつが悪い。

今は待たせてあるやつが居るからな。

それに、こっちの用件は嫌な予感はするが逃れられんだろうし・・・。

弓道場から見える所に遠坂さんは待っていた。そんなに信用ないのか。

それにしてもさっきの視線といい、なんで今日はこうも殺気にあてられにゃならんのだ。俺が何をした。

 

「なあ空戒、ちょっと聞きたいんだけどさ、お前って遠坂と仲良かったっけ?」

「いや、さっき話すまで顔も名前も知らなかったが。それがどうかしたか?」

「ふ〜ん、そうなんだ。なんかさっきからずっとアンタのこと見てるから、なんかあるのかな〜と思って」

 

顔は笑っているが目がまったく笑ってない。

何だ、なんでこんなに殺気立ってるんだ。というより弓道部員一同! 練習を止めてこっちを注視するな!

 

「何を考えてるか知らんが、俺は彼女のことは顔と名前しか知らん。それに話があるとかでこの後会うことになってるが、

それとてなんで俺が呼ばれるのか理由がわからん・・・・どうした?」

「いや、なんでもない気にしないでいい・・・・・・」

 

物凄い眼で弓道場の外に居る遠坂さんを睨みつける綾子。それに怯む遠坂さん。

そして先ほどの比ではない程の男子部員からの殺気の篭った視線と、女子部員の好奇の視線の視線が突き刺さる。

そんな視線の中、針も筵に置かれた気分を味わっていると声をかけてくるのが一人。

 

「おい、荒耶。お前、遠坂に声かけられたからっていい気になってんじゃ「退いてろ、間桐邪魔だ!」 ガスッ 「げふ!」

 

うわ、見事に顎に入ったな。こりゃ立てんな。

それにしても間が悪いな、間桐。

 

「っしゃー!! いいぞ、美綴ー! ついでだ皆ヤっちまえー!」

「「「「応!!」」」

 

 ゴンッ! ボスッ! ドブッ! グキッ! メギッ! プチッ!

 

人の体を殴った時に絶対聞かないような音が聞こえるが・・・・まあ間桐なら大丈夫か、

なんせ何度か刺されたこともあるらしいし。

 

「ちょっと!あんた達!!なにどさくさに紛れて慎二いじめてんのよ!!」

「うるせー!俺はこいつに出来たばっかの彼女盗られたんだぞ!!畜生!!」

「俺もだ!中学から付き合ってたのに、くそーー!!」

「それはあんた達に魅力がなかったからでしょうが!!」

 

ゴンッ!  ドブッ!  ゴキッ!  ヒュン、ヒュン!  ドスッ  「ぎゃぁあぁ」  「宮本ー!!」  「す、すまん・・・俺は、ここまでだ・・・」      「何言ってやがる!しっかりしろー!!」

 

「衛生兵ー!!」「死ぬな!宮本、傷は浅いぞー!」「おのれー!宮元の敵討ちじゃー!」

 

ヒュヒュヒュヒュッ! ドスドスドスドスッ!! 「うぎゃ〜〜!!」

 

「・・・あ〜なんだ、喧嘩は、いけないよ〜って駄目か、こりゃ」

 

もうどうしようもないな。それより、俺は何かしたか?

いや、何もしてない。そうだ、だからこれは俺と何の関わりもない。

さて、さっさと遠坂さんの用件を終わらせて帰ろう。そうだ、それがいい。

とりあえずここから脱出して、遠坂さんの待っているところへと向かおう。

何故か後ろが物凄いことになっていそうだが、あえて無視だ。

 

 

 

その弐へ・・・


拳鬼さんから「Fate/stay night 欠陥魔術師」の序章の2を頂きました。

や、まだ本編にも入っていないので、日常というか、おおよそギャグオンリーですね。

序章の一でもそうでしたが、慎二が酷い目にあっています。

拳鬼さんは慎二が嫌いらしいので、これから先も慎二の扱いはあんなものだそうです。……可哀相な慎二。

今回は2話まとめてもらったので、続きを読みたい方は「その弐へ」をクリックしてください。

拳鬼さんへの感想は、掲示板へどうぞ。

 

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