勢いよく学校から飛び出したはいいが、さて、どこから探すか・・・・。

まあとりあえず、新都から探しに行くか。

はてさて、始めに見つかるのは

封印指定ハンター、バゼット・フラガ・マクレミッツ。

それともケルト魔術の使い手、オルク・アンダーウッドか。

どちらにしても厄介だな、面倒くさい。

 

「なあ、そこの兄ちゃん。ちいとばかし聞きたいんだけどよ、此処って何処らへんか分かるか?」

 

思考が少々下方に向かっていこうとしたとたんに声をかけられた。

 

「いや〜なれねえ土地なもんで迷っちまってさぁ〜」

 

振り返るとそこには、蒼い服? を着た

 

「ん? 言葉通じてるよな? もしも〜し」

 

変態がいた

 

 

 



         

 

Fate/stay night

欠陥魔術師

序章 第三節 「出合い、内包する『混沌』」

 

 



 

 

 

SIDE 空戒

 

「え、ああ、通じているが。それにしても、アンタ幾らなんでもその格好はどうかと思うが?」

「あん? この格好ってそんなにおかしいか?」

「そりゃあもう・・・・・おかしいを通り越して変だ」

「テメエ、初めて会ったヤツにそこまで言うか普通」

 

あからさまに失礼だと言いたそうな眼で見てくる蒼い服、否、全身タイツの男。

まさかとは思うが、この格好でここらをうろついていたのか?

 

「まあいいか、んで? もう一度聞くけどよ、此処ってどの辺か分かるか?」

「ああ、ここは位置でいうなら冬木大橋の目と鼻の先でそこを渡ると新都に着く」

「するってぇと、ホテルがあるのは反対側か・・・・・すまねえ、助かったぜ兄ちゃん」

「いえ、なんでしたらそのホテルまで一緒にいきましょうか? 俺も丁度新都のほうに用がありますし」

「マジか! 助かるぜ、悪いな。いやぁさっきから何人かに話しかけてんだけどよ、皆なんでか揃って俺のこと無視しやがってな。どうしようかと思ってたんだ」

 

そりゃあ、なあ。普通の人間なら出来るだけ関わりあいたくないだろうし。何よりもよく通報されなかったな。

 

「そういやまだ名前言ってなかったな。オレはランサーだ。お前は?」

「荒耶空戒といいます。それにしても随分と変わった名前ですね」

「そりゃあ本名じゃねぇからな。理由あって本名は名乗れねぇんだ、すまねえな」

「いえ、お気になさらず」

 

なぜだろう、捜索開始直後目標を発見。

幾らなんでも出来すぎにも程があるだろうが。

大体サーヴァントがこんなんでいいのか!?

・・・・・・・・

落ち着け、俺。

とにかく、このままランサーに付いて行けば自ずとマスターの居場所が突き止められる。

そうすれば面倒な仕事もさっさと終わらせることが出来るだろうしな。

 

「ところで、そのホテルってなんて名前ですか?」

「ん〜それがよ、知らねぇんだよ。バゼット、ああバゼットてのは、まあオレの相棒みたいなヤツなんだけどよ。なんでかまったく連絡が取れなくてな。多分寝てやがるんだろうけどな。ったく、自分の泊まってる所ぐらい教えとけっての」

 

はぁ〜、と妙に疲れたようなため息を吐くランサー。確認を取らなかったお前も悪いと思うぞ。

とりあえず、ランサーのマスターがバゼット・フラガ・マクレミッツだということが分かった。

だが今の会話から少し気になることもあった。

 

「いったい何時からそのホテルを探してるんですか?」

「あ〜、昨日の夜にバゼットの知り合いとかいうヤツに会いに行ってからだから、大体12時間ってとこか?」

 

馬鹿だ。救いようが無い程の馬鹿だ。

なんで12時間も探して見つからないんだ。

それ以前に相棒の居場所ぐらい事前に聞いとくものだろうが。

 

「それじゃあ冬木市中を探しても見つからなかったんですか?」

 

それだとこちらとしてはかなり困るのだが

 

「いや、考えてみたらここら辺しか調べてなかったなあ。どうりでホテルなんぞ見えんと思ったら、新都ってのはあっちだったか」

「もしかして、ランサーさんって、方向音痴とか・・・・」

「いや、そうじゃない・・・と思う」

 

かなり自信がなさそうだが、流石にこれまで迷っていたので違うとは言えないのだろう。

まあ、言峰の話が正しいのなら召喚されたとしてもまだ2日と経っていないはずだ。

地理に慣れていないのも納得できる。

 

「まあ過ぎたことをいじいじ悩んでいても始まんねえやな、行くか」

「ええ、とりあえず歩きながら考えましょう」

「おう」

 

あ、今更ながらまだ学校が終わっていないのに制服のまま、しかも蒼い全身タイツの男と並んで回るのははっきり行ってかなりやばいんじゃないのか?

 

 

 

 

                     ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 

 

 

SIDE ランサー

 

ったく、なんなんだよこいつは。

生きてる気配が待ったくしねえ。だからといって死徒ってわけでもねえ。

まあ、話やすいっちゃあ話やすいからいいんだけどよ。

それに、どうにもこいつは俺とおんなじにおいがしやがる。一般人ってことはねえな。

となると魔術師か。

 

「どうしました?」

「ん? ああ、何でもねえ。それよりもその変な敬語止めろ。はっきり言ってかなり無理があるぞ」

「む、そうかなら普段どうりに話させてもらう。やはりこの話し方が一番らくだ」

「おう、そうしてくれりゃあオレも話やすいってモンだ」

「そうか。ところで、新都に来たのはいいが本当にホテルの名前は分からないんだな」

「おう、それは自信を持っていえるぞ」

「そんなものに自信を持つな、たわけ!!」

 

スパンッ!!

 

「いって〜な!! 何しやがる!!」

 

っていうよりも見えなかったぞ、どうやってオレの頭どつきやがった。

くそったれ、なんなんだよ今のは・・・・。

 

「手当たりしだいに探すとなると下手したら日が変わる。お前の相棒が泊まりそうな場所の特定は出来ないか」

「あ〜、相棒っていってもまだあって二日と経ってねえからなあ。まあ、あいつの職業柄あんまり目立たないような所にいるだろうな」

「ふむ、なら裏通りにあるホテルから探すか・・・・」

 

裏通り、この町にもそんなとこがあるんだな。

まあ、あいつならそこに居る可能性が高いな。というよりも昨日の状態じゃ、どこに居るかは本気でわかんねえしな。

ちくしょう! さっさと連絡よこせよ!!

 

「どうした、さっさと探しに行くぞ」

「おい、ちょっと待て。何でお前そんな偉そうなんだよ!」

「煩い、自分の迂闊さとお前の馬鹿さ加減を考えたらなんか腹が立ってきた」

「なんだよその理不尽な理由は・・・・」

 

あ〜くそ、何でオレはこんなヤツに声をかけちまったんだよ。

まあ、案内してくれるってんならありがたいからいいんだけどよ。

そんなことを思っているとあの野郎自分だけさっさと進んでいきやがる。ほんとに案内する気あんのか?

 

「何をしてる、置いていくぞ」

 

ちっ! なんか腹立つ。まあバゼットが見つかるまでの仲だ、我慢すっか・・・・・

 

「って、ちょっと待て。なんでいきなりそんな裏路地に行くんだよ!」

「裏通りのホテルなんてものがこんなに人気のあるところから入れるとでも思っているのか、お前は」

「てめえ・・・さっきから思ってたがよ、オレのこと馬鹿にしてんじゃねえだろうな」

「・・・・・・・・・」

「何だよその沈黙は!!」

「気にするな、それに俺はお前のことを馬鹿にしてるんじゃない。ただ、哀れんでいただけだ」

「余計に悪いわ!!」

 

この野郎・・・・いつか絶対に泣かす。

 

「さっきから何をそんなにギャーギャー騒いでるんだ。犬か貴様は」

「犬って言うな!!」

「なんだ、犬に何か恨みでもあるのか、お前は」

 

泣かすのは止めだ、こいつは殺す。そうだ、こいつはたぶん魔術師だろうから殺っても別に・・・・・

 

「おい、ランサー、これはなんだと思う」

「あ゛? ってなんだこりゃ? 服か?」

 

ちいとばかしヤバイ考えに没頭していると、急に声をかけられて我に帰る。

足元には女物の服が一式揃って散らばっている。ただの服だろうが何でこんなところにあるんだ?

 

「胸のところに何かで刺されたような跡があるな。だが随分と切れ味が悪い。木製の何かそれも鉛筆程度の太さ・・・・ヤドリギか」

「ヤドリギ? 何でこの疵がヤドリギだって分かんだ?」

「簡単なことだ。服だけ残して死体が無い、こんな妙な殺しなどがあってたまるか。」

「ちょっと待て、なんで殺しだと分かる。それに俺の質問に答えてねぇし」

 

確かにこりゃあ殺しかも知れねえが、だからといってこんなにはっきりと断言できるもんか?

 

「さっきまで此処にこの服の持ち主だったであろう若い女がいたからな。そいつの記憶を見た」

「は? お前頭大丈夫か?」

 

こいつ、死者の魂の記憶を読み取りでもしやがったか。

となるとやっぱこいつは・・・・

 

「魔術師か、テメエ」

「はじめから気が付いていたのだろう、ランサーのサーヴァント」

 

はん、こいつもやっぱり気付いていやがったか。

つっても気が付かなけりゃただの馬鹿か、よっぽどの間抜けだろうしな。

 

「俺についてくりゃあマスターの場所が分かるとでも思ったか?」

「いや、そうなればいいと思っていたが今はもう気が変わった」

 

あん? 気が変わった、だと。

 

「どう気が変わったってんだ? 一応言っとくが俺は本当にマスターの居場所なんぞ知らんぞ。なんせ昨日の夜、言峰とかいうヤツの教会でマーボーとかいうのを食ってからまともに連絡が取れなくなったんだからな」

「なるほど、それで今日になっても連絡が取れなかったというわけか」

 

何がなるほどかわからねえが、昨日のあのマーボーとかいう赤黒いモノは食ったらヤバイ食い物だったのか?

 

「となれば、お前もお前のマスターも放っておいても大丈夫そうだな。となれば・・・」

「もう一人のマスターを探すのか?」

「ああ、もう一人のマスターはケルト魔術を使う魔術師だ。あの魔術はヤドリギを使う。その中でも月齢六日目、樫の木に生えたヤドリギが最上とされるが、ヤツは恐らく人を苗床にしてヤドリギを育てているのだろう。それならば質は落ちるが数は揃うからな。早いとこ探さねば無用な犠牲者が増える」

 

ほう、こいつ、魔術師にしては甘いのかもしれん上に仕事馬鹿。

会ってまだ半日と経っているのかいないのかといったところだが同じく会って二日と経ってねえバゼットと似てやがるな。

 

「楽しそうじゃねえか、俺も手伝うぜ」

「いいのか、お前のマスターを探さなくても」

「かまやしねえよ。それに俺は隠れてこそこそとなんかしようってヤツが嫌いなんだ」

「そうか。ではいくか。ありがたいことにヤツの魔力がまだ残っている。これを辿れば自然とヤツにたどり着くだろう」

「テメエ、さっきも死者の魂から記憶を読み取ったとか言ってたが、まさか魔眼持ちか?」

 

さあな、とかぬかしやがった。くそ!

だが、魔眼じゃねえにしても何か厄介なもん隠し持っていやがるな。

まあいいか、こいつも魔術師なら近いうちに戦うことになるかもしれんしな。

出来るならその隠し玉を見てみたいが、さて、探してるヤツがそれほどの力を持ってるかどうかだな。

 

 

 

 

                     ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 

 

 

SIDE ?

 

ふむ、やはり屋敷の中にいるよりも外にいるほうがいいな。

それにしても、あの小娘が生意気にももっと節電しろだの、節水しろだのとけちくさい。

あまつさえ宿代を出せとまで言い出すとは。大体一人しか居らん屋敷を使ってやっているのだ。感謝されることはあっても文句を言われる筋合いは無いぞ。

 

「もし、そこの方」

 

ん? 誰か呼ばれた気がするが……、占い師、こいつか?

 

「そう、そこの金髪の背が高い貴方です」

 

ふむ、確認のために周りをざっと見るが、そのような者は近くには居ない、となると。

 

「ええ、貴方です。どうぞこちらに来てください」

「悪いが占いなどに興味は無いが・・・」

 

いや待て、この気配は・・・ふん、そうか、こいつは面白いことになりそうだ。暇つぶし程度にはなるであろうな。

 

「気が変わった。いいだろう、どこへなりとも行ってやろう」

「そうですか。それでは、申し訳ありませんがこちらへ」

 

そう言ってさっさと裏路地のほうへと誘う。

さて、何があるにしろ、憂さ晴らしには丁度いい。

あまり失望させるなよ。

 

 

 

 

                     ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 

 

SIDE 空戒

 

「なあ、ランサー」

「あん? どうしたんだ、空戒」

「何で俺たちはこんなところにいるんだ」

 

周りを見ると、既に日も暮れ人も疎らになってきた。

そんなオフィス街の一角にあるベンチに、学生服の男と蒼い全身タイツの男が並んでホットドッグと弁当を食っている。

はっきり言ってかなり怖い。

 

「そりゃあ殺しの犯人探し回って、腹がへっははらはふぉ」

 

話しながらもさっき買ってやった―あまりにも煩かったため―ホットドッグに齧り付くランサー。

話している途中で口に物を入れるな。

 

「サーヴァントは食事などせんでもいいんじゃないのか?」

「んあほといっへも・・・・ぐ!!」

 

急にランサーの動きが止まったかと思うと胸を乱打し始めた。

どうやら喉が詰まったらしい。このまま放っておいたら喉にホットドッグを詰まらせて死んだ英霊として

物笑いの種になりそうだな。あれ、英霊はもう死んでるか。

ん? なんかランサーの顔色が赤くなってきたな。

 

「む、冷めてもこの味とは、腕を上げたな」

 

俺はそんなランサーをよそに弁当をかっ食らっている。

ランサーの顔が青くなってきた。何かを必死で訴えてくる。

 

「そういえば、まだ奢ると言って何も奢ってなかったな」

 

最後にとっておいた鳥の照り焼きを口に放り込みながら横を見ると、

紫色になっているランサーが今にも息絶えそうなほどに弱っている。

それを無視して、近くの自動販売機で何か飲み物を買おうと立ち上がると服の端を誰かに掴まれる。

それは既に目が死んでいるランサーだった。

 

「ランサー、無理に飲み込まんでも吐き出せばよかろう」

 

ふるふると首を横に振るランサー。

 

「もったいないから吐き出せんと」

 

今度は縦に頷く。

 

「まあ、解らんでもないがな。だが俺にはこうとしか言えん、頑張れ」

 

弱々しく掴んでいる手を払いのけ自動販売機に向かう。

なんかもう泣きそうな顔をしたランサー。あまりにも哀れなので何か買ってやるか。

だが絶対に後でランサーのマスター、バゼットに請求してやる。

さて、何を買うか。

そう思って気が付いた。目の前の自動販売機は、とある企業が実験的に置いている実験自動販売機。

その中でも比較的まともそうな『まろ茶』を自分用に買い、ランサー用には『赤汁、俺の青春味』を買ってやる。

 

「どうしたランサー、そんなにぐったりして」

 

戻ってくるとランサーは既に土気色をしていた。

 

「まったく、人がせっかく飲み物を買ってきっというのに」

 

ほれ、と放ってやると今までが嘘の様な速さで缶を受け取りプルタブを開け一気に飲み込む。

 

ゴッゴッゴッゴッゴ・・・・!!

 

「っぐ! な、なんじゃこりゃ〜!!!」

「『赤汁、俺の青春味』だそうだ。どんな味だ」

「なんかこう、はじめ飲んだ時はやたらと甘かったんだがだんだん苦くなってきて最後は妙にすっぱくてしかも辛かった。
って〜かこりゃ飲み物じゃねぇ・・・・・」

 

ふむ、『まろ茶』は普通に飲めるんだがな。

やはり実験作というものは当たり外れの差が激しいな。

右手に持った『まろ茶』を一気に飲み干しゴミ箱に放り込む。

 

「さて、これ位でいいだろう。さっさと行くぞ」

「なっ! ちょっと待て!! せめて口直しにまともなもん寄越せ!!」

「煩い。できるなら今日中に探したいんだ」

「つってもどこにいるか見当はついてんのかよ?」

「ああ、さっきの被害者の状況から見てヤツはこそこそ裏で動いて何かするといったことには長けているとでも思っている中途半端な自信家だ。そういったヤツは大体同じような場所をうろうろしていることが多い」

 

実際、以前言峰が持ってきた仕事でそんなヤツを狩ったことはあるが、はっきり言ってかなり面倒くさかった。

大体同じ範囲で動いているくせに妙に隠れることと逃げることが上手いので、捕まえるまでかなり時間がかかった。

その仕事のせいで授業日数に大打撃を与えたが、今の状況でまたあの時みたいなヤツだった場合、かなりまずい。

言峰のヤツがどんな言い訳を考えていたかによって決まるが、はっきり言ってまったく期待できない。

 

「なんか、かなり偏見が混じってるような気がするが・・・・」

「気にするな、行くぞ」

 

そしてさっさと片付けて、その後バゼットを見つけてランサーに食わせたホットドッグ代と飲み物代、合わせて2120円を払わせてやる。くそ! 何でたかがホットドッグが一つに2000円も払わにゃならんのだ。

苛立ちながら歩みを進め大通りに出る。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・なあ、空戒」

 

「なんだ・・・・・・」

 

「あれって・・・・・」

 

「・・・・・・・・言うな」

 

 

大通りに出ていきなり目に付いたもの。

人通りが少なくなったといってもまだ人がいないというわけでもないのに係わらず、その一角だけまったく人がいない。

いや、ただ無意識にそこを避けているのだろう。当然だ、普段の俺なら絶対に避ける。

顔をすっぽりと覆うローブ。目の前の台には水晶玉。おまけといわんばかりの『占いやってます』の札。

・・・・・・・・馬鹿か?

 

「あれ、もしかして・・・・・・キャスターじゃねえのか?」

「恐らく・・・・・・哀れな」

 

なぜかとても可哀そうになってきた。どうやらマスターはとんでもない馬鹿のようだ。

それにしても、あんなので引っかかるのはよほどの物好きか馬鹿かのどちらかだ。

 

「なあ、そのいかにもなヤツに話しかけられてるヤツがいるぞ」

「ああ、しかもあっさりと付いていったな」

 

そう、何でか知らんが、キャスターと思われる人物に話しかけられあっさりと付いていく背の高い異人がいる。

あんなのにほいほい付いていくか普通。それとも酔っ払ってでもいるのか?

 

「これって不味いんじゃねえのか」

「ああ、追うぞ」

 

今日は厄日か吉日か、まったく。

しかし、此処まで早く見つかるとは思わなかったな。ともかくこれ以上被害者が出る前に始末しないとな。

だがあの異人、どうにもおかしなニオイがする。

俺と同じニオイが。

 

 

 

                     ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 

 

 

SIDE キャスター

 

おかしい。

幾らなんでもあんな言葉で付いて来るはずがない。もし付いて来るとしたらよほどのうつけ者としか思えない。

まあ、うつけ者といえばこのような方法でひき込もうと考えるあの男もだろうけれど。

昨日引っかかった女もただ酔っていただけのことだというのに、それを自分の策ともいえない策のおかげだと

思っているのだから、まったくお目出度い頭をしている。

 

「さて、このような所でどうしようというのだ?」

「ただ生きているだけの貴様らを私が使ってやろうというのだよ」

「・・・・・・なんだと」

 

昨日も思ったがこの男、隠れることと無駄に自分を大きく見せようとすることだけなら一流かもしれないわね。

 

「貴様らのようなクズでもわたしの役に立てるのだ。感謝するがいい」

 

本当に何を考えているのか分からない。

一般人にいきなりそんなことを言ってもただの頭がおかしい異常者でしかないというのに、

それすらも分かっていないのだろうか。

 

「・・ん・・しゅ」

「ん? 何を言っている? 自らの死を悟って神にでも祈っているのか? ん?」

 

この男は本当に救いようの無い愚か者だ。

先ほどからこの場に集まっている魔力に気が付いていないのか。

まあいい、警告する気は無い。寧ろこのままこの男を始末してくれればそれでいい・・・

 

「だがそんなものは何の意味も「黙らんか! 下等な雑種が!!」な、んだと貴様!!」

「黙れというのが分からぬか! 貴様のせいで興が冷めたわ!! あまつさえ余計に不愉快にさせおって!! 
その代償、貴様の命で償え!!」

 

ブワッとまるで質量を持ったかのような魔力が吹き荒れる。

呆れた。下手をすれば私なんかよりも魔力があるんじゃないかしら。

 ワタシ
「我の手で死ねること、あの世で誇るがいい!!」

 

その言葉と同時に空中に幾つもの剣に槍、斧、刀等の刃の群れが現れる。

これは・・・・・・宝具? ということは、サーヴァント。本当に運が悪いわね。

とにかくこれであの男はこれで終わり。そして私も・・・・。

結局、裏切りの魔女の最後なんてこんなもの。本当に望んだ物など決して手に入らない・・・。

 

「おいおい、何でこんなに面白い状況になってんだ?」

「俺はまったく面白くないぞ」

「嘘吐け、口元が笑ってんぞテメエ」

「誰が貴様のようにギャーギャーと煩い犬男と同じか」

「オレを犬と呼ぶなーーー!!」

「貴様は犬に何か怨みでもあるのか?」

「うっさい黙れ!!」

 

そんなのんきな会話が緊迫した状況にある裏路地に響いた。

・・・・・・何をしに来たのだろうか、彼らは。

 

「どこの誰かは知らぬが、今の我(ワタシ)は機嫌が悪い。死にたくなければ去れ!」

「そうはいかん、こちらも仕事なのでな。そこの魔術師とサーヴァントに用があるんでな」

「なあ、なんか知らねえけど、すっげえヤバそうな気がすんだけどよ。つか何だよこの剣やら斧やら槍やら……ッて!
あれオレのじゃねえかよ!!」

「煩い、黙っていろランサー」

 

ランサー。最悪ね。まさかこんなに早く他のマスターとサーヴァントに遭遇するなんて・・・・・。

 

「き、貴様等、まだ聖杯戦争は始まっていないんだぞ!! だというのに貴様等・・・・」

 

 

「黙れ、外道」

 

 

あの男の言葉が引き金になったかのように突然乱入者の気配が変わった。

いえ、変わったのはそれだけじゃない。周囲の空気、マナ、光や影、重力でさえも変わってしまったような錯覚を受ける。

見ればあの男も、それまで凄まじい魔力と怒気を撒き散らしていた者までもが動きを止めている。

いや、よく見れば二人とも僅かに震えている。乱入者のもう一人も、かくいう私も震えている。

あの男の震えは恐怖から来るものなのだろう。ラインを通じてそう伝わってくる。

だが私のそれは、他の二人は違う。これは恐怖とは違う種類の震え。

 

「魔術師オルク・アンダーウッド。貴様は犯してはいけない禁忌を犯した。いったい何人の人間をヤドリギの苗床にした」

「き、貴様、なな、何故そのことを!!」

 

見るからに動揺している男。まったく、代行者に見つからないとでも思っていたのかしら。

偽装も何もしないでそのまま残してくればいつかは見つかるとは思っていたけど、これほど早く見つかるなんて、

本格的に運がないわね。

 

「愚かな。せめて遺品の処分なりすればもう少し時間が稼げたろうにな。その程度の事、畜生ですら出来る」

「貴・・・様!! 名を名乗れ!!」

 

羞恥と怒りで顔を紅潮させて怒鳴り散らす男。

その声は内にある恐怖を消そうとするかのように自然と大きくなる。

 

「魔術師オルク・アンダーウッド、貴様を冥府へと送るもの・・・・」

 

私に恐怖はない。そのような感情とはまったく違う何か・・・

 

「荒耶空戒、その名を恐怖と共に刻み逝け」

 

私は、初めてマスターであるあの男に感謝したい。

あの男の愚かさのおかげで荒耶空戒という人間に出会えたことを。

 

「さあ、魔術師。貴様の死力を尽くせ。俺を楽しませろ」

 

彼の者に在るモノは『混沌』。

戦いを、殺し合いを楽しむ狂気。

怪我を、病を、死を忌避する正気。

己が前に立つものを殺し尽くさんばかりの殺気。

己が後ろに立つものを護らんとする闘気。

周囲の全てを飲み込むような鬼気。

周囲の全てを包み込むような神気。

 

「始めよう、魔術師の闘争を」

 

それを当然のように纏い内包する異常者。

彼こそは『混沌』、死の体現者、生の具現者。

彼に対し私が感じたもの、それはまさしく・・・・

 

歓喜

 

「貴様の全てを殺戮してやろう」

 

これから自身に降りかかるであろう二度目の死を前にしているというのに、

その『混沌』から目を逸らすことが出来なくなっていた。

私は狂っているのだろうか、彼のような混沌と出会い歓喜するなど。

ならば私は喜んで狂おう、それが私にとっての幸いとなるだろうから。

 

 

 

 

つづく・・・

 


はい、というわけで、拳鬼さんから「Fate/stay night 欠陥魔術師」の序章の5を頂きました。

なんというか、哀れ、ランサー。空戒に振り回されて、イイ感じにギャグキャラと化しています。

蒼夜はランサーが結構好きなので、これから先の彼の活躍に期待したいところです。……期待して、いいのかなぁ?

それはともかく、なんだか主人公の空戒がすごい事になっています。なんでしょう、彼の起源は「混沌」とかだったりするんでしょうか。

サーヴァントを脅えさせる魔術師って、色々と間違っている気がします。でも、格好いいので個人的にはおっけーです。

気になるのは、キャスターの処遇ですか。キャスターも好きなキャラなので、余り酷い扱いではないことを願います。

拳鬼さんへの感想は、掲示板へどうぞ。感想は作家さんのエネルギー源です。出来るだけ送ってあげてください。

 

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