戦場と化した弓道場からなんとか逃げ延びたのもつかの間。

今度は、さっきからずっと待たせたままの遠坂さんの用件を済まさなければならない。

なにやら人に聞かれたくないからと、今は使われていない部室があるからそこへ行こうということになった。

 

バキッ!   ギィィィ

 

遠坂さんが先に進んで部室の扉を開ける。幸い鍵はかかっていなかった・・・・と、思いたい。

ドアノブは重力に耐えられずに地面に落ち、ドアが軋みながら開く。

 

「さっ、開いたからどうぞ」

「遠坂さん、それは器物損害ではないのか」

「いいのよ、どうせこの部室なんて誰も来やしないんだから。ばれなきゃいいのよ、ばれなきゃ」

 

・・・・・はて? さっきまでの雰囲気と随分違うが。

 

「なあ、遠坂さん、流石にそれは・・・」

「いいからさっさと入りなさい!」

 

ドンッ

 

「ぬおぅ!」

 

ぶわっと顔に埃が降りかかる。長いこと使われていなかった証拠だ。

ざっと回りを確認すると、何に使うのかわからない道具がごろごろと転がっている。

何部だったんだここは?

いや、そんなことは今はどうでもいい。

 

「いきなり人を突き飛ばすのは酷いと思うが、遠坂さん」

「うっさいわね、ぐずぐずしてるほうが悪いんでしょうが」

 

おそらくはこれが地の性格なのだろう。さっきでは猫をダース単位、もしくはきぐるみでも着ているのだろうな。絶対そうだ。

 

「なによ」

「いや、なんでもない。それよりも用件はなんだ。金を出せといわれても今手持ちは238円しかないぞ」

「誰もかつあげなんてしないわよ!!」

 

違うのか? 普通こういうときは大抵「金を出せ」、もしくは「気にいらねえんだよ」とか、難癖つけて殴りかかるものじゃないのか。

 

「は〜、もういい。用件は貴方に聞きたいことがあったのよ」

「聞きたいこと? 何を聞きたいんだ、遠坂さん」

「貴方、魔術師でしょう。それもあの荒耶宗蓮の関係者」

 

養父のことを知っているのか。ということは、つまり遠坂さんは向こう側の人間か。

 

「確かに、俺の養父は荒耶宗蓮という名前で魔術師だったが、俺は魔術師ではないぞ」

「しらばっくれんじゃないわよ。上手く隠してるつもりでしょうけど、隠しすぎてアンタには普通ある筈の物までまったく感じられないのよ!」

 

「隠す? 何を言ってるんだ?」

 

いきなり隠してるだの何だの言われてもさっぱり分からん。俺が何を隠したってんだ。

 

「そう・・・あくまでもしらを切るつもりね。いいわ、こうなったら実力行使で吐かせるまでよ!」

 

おい、ちょっと待て。なんなんだ、そのやたらと攻撃的な思考は。俺は何もしていないぞ!

そんなことを考えている間に、遠坂さんの左腕に魔力が集まっている。

そして魔力の集まった左腕、正確に言えばその人差し指をこちらに向ける。

 

「遠坂さん、人を指差すのは失礼「うッさい!くらいなさい!」

 

遠坂さんの叫びと共に、人差し指からこちらに向かって魔力塊が飛んでくるのが視えた、次の瞬間。

 

「・・・・・なにをくらえばいいんだ?」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・避けないで当たりなさいよ!」

「・・・・・は? さっきから動いてないんだが??」

 

何を怒っているのか知らないが、本当になんなんだ。さっきから、くらえだの当たれだのと。

 

「ええい、埒が明かん、証拠を見せればいいんだろうが証拠を・・・」

 

仕方が無い、あれをやると疲れるからあまりやりたくないんだがな

 

魔式、展開。

 

思考、変更。

 

意識を意図的に日常から非日常へと切り替える。

 

周辺のマナを収集、体内の魔術回路に流し込む。                         

 

                                           「ウソ!冗談でしょ?なんなのよこの魔力は!?」

全身にマナが満ちるのを確認、精製開始。    

 

                                            「攻撃は無理、なら受けてやろうじゃないの!!」

精製終了。腕部へ集中移行。                              

 

                                           「あれ?え?うそ?!無い、無い!!」

移行終了。展開開始。                              

 

                                            「なんで・・・あっ!宝箱に昨日仕舞ったんだっけ」

展開終了。目標補足。

 

                                           「あは、あはは、またやった・・・嫌過ぎるわよ!こんなの!!」

魔力、崩壊。魔式、強制閉鎖。

 

                                            「へ?不発?なんでって、とにかく助かった〜」

 

「ぐ、ぬ・・・っはぁ、はぁ、はぁ。・・・・これで、分かったか?」

「分かったか?じゃないわよ!! 何してんのよいきなり!!」

 

自分で証拠を見せろというから見せてやったのに、まったく。

 

「最初に言ったように、俺は魔術なぞは使えんのだ」

「じゃあなによ、今の馬鹿みたいな魔力は」

「あれはただそこらに在ったマナを掻き集めただけに過ぎん、俺に出来るのはそれが限界だ」

 

そう、それが限界。

どんなに足掻こうとも超えられない絶対域。

幾らマナを集めようと、それを魔術として行使することは出来ない。

 

「は? それじゃなんで荒耶宗蓮はアンタみたいのを養子にしてたのよ」

「マナを掻き集めることだけならば先ほど見せたように馬鹿みたいな量を集められる。

それを自分の魔力に還元しようとしたらしい」

「なんて無茶な・・・。あれだけの量のマナを全部使うような魔術なんて、

それこそ大魔術か儀礼呪法でも連発するぐらいのもんじゃないの」

「さあな、そこまでは知らん。ただいえるのは、俺は魔術師としては欠陥品でも、

魔力供給機としては養父にとっては優秀だったから生かされていたんだろう」

 

もっとも、今となってはそれを確認しようにも、既に養父は存在していまい。

 

「そういうこと・・・・。ならアンタは魔術の使えない魔術師、欠陥品の魔術師ってことね」

「そのとおりだ。故に荒耶の名を名乗ってはいるが、養父のなそうとしていたことなどできん」

「ふ〜ん、まあいいわ。とりあえず信用してあげる。でもさっきの私のガンドを無効化したのはなんなのよ」

「それについては俺も知らん。昔からそうだったが、俺に魔術はやたらと効きづらいらしい」

 

実際、十年前に俺が拾われたとき、大怪我をした俺に養父の治癒が効かず死にかけたこともあった。

あの時の怪我は、もう普通の病院の医者では確実に治せなかったであろう。

養父の知り合いの人のおかげでどうにか一命は取りとめたが、今考えると養父の知り合いということは、

あの人も魔術師だったんだろうな。

 

「わけわかんない。どういう体してんのよアンタは・・・」

「どうもこうもない。生まれたときからの体質だ・・・と思う」

「さっきから聞いてるとなんかアンタってずいぶん適当ね。自分の体なんでしょう。なんでそんなに自信なさそうに言うのよ」

「仕方あるまい。十年前に養父に拾われる前まで魔術とは何の関りの無い一般人だったはずなんだからな」

「はあ!? じゃあなに、アンタはどっかの魔術師の家から貰われたんじゃなくて、ただの一般人だったてこと!?」

「そうだ、といっても拾われる前の記憶なぞさっぱり無いんで、はっきりとはせんがな」

 

俺の話を聞いて、遠坂さんは唖然としている。それはそうだろう。

普通魔術師の養子といえば、どこか他の魔術師の子供であるというのが基本なのだから。

俺のような例外などはそう何人もいないのだろう。というよりも普通はありえない。

 

「あ〜もういいわ、分かった。いや分からないほうが多いけど・・・。とにかく! アンタが荒耶宗蓮の養子ってことに

変わりは無いのよね?」

「ああ。それは否定せんが、だからどうしたんだ」

 

なんだ・・・・この嫌な予感は。

 

「そう、そして今でも冬木市に住んでるのよね」

「あ、ああ」

 

遠坂さんの口が三日月の様になったと思ったのは俺の見間違いか?

 

「わたしって冬木市のセカンドオーナーでもあるのよ。それでとても心苦しいんだけど、

貴方のことを協会にほうこくしなければいけないんだけれど・・・・・」

 

なにを企んでいる。どうにも胸騒ぎがする。

 

「条件次第で黙っててあげるわ」

「条件、だと」

「そ、要するに協会に黙っててほしければそれなりのモノじゃないと、ね」

 

そうきたか。ここでその条件とやらを飲まねば、本気で協会に報告するだろうな。

 

「いいだろう、その条件はなんだ」

「アンタの親の代からこれからのシャバ代、払ってもらいましょうか」

 

なんだ、最初に思ったことと変わらないじゃないか。

 

「遠坂さん、それはカツアゲじゃないのか」

「うっさいわね、これはカツアゲじゃなくてただの取引よ。で、どうするの?」

 

 

 

 

こうして俺の、借金もしていないのに借金生活と変わらない生活が始まった。

 

 

 

 

 

つづく・・・

 

 


拳鬼さんから「Fate/stay night 欠陥魔術師」の序章の3を頂きました。

序章の2と一緒に貰ったので、続けて読みにきた方もいらっしゃるかもしれません。

今回は、主人公「荒耶 空戒」と「遠坂凛」との馴れ初めですね。

どうも空戒は魔術を使えない、タイトルにあるとおり「欠陥魔術師」らしいです。

何故彼は魔術が使えないのか。何故彼には凛の魔術が効かなかったのか。そして、何故凛は原作よりもお金に汚いのか。

謎は深まるばかり(笑)。蒼夜は続きが楽しみです。

拳鬼さんへの感想は、掲示板へどうぞ。

 

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