「な…」

少女の言葉に、青那は目を見開いて驚愕した。

CETP。The created exceptional talent personの略であり、その意味は“創られた異能者”。

その名の通り、人工的に創られた異能の力を持った者達のことを指す。

彼らはある目的のためだけに、それに特化した形で作られる。

その目的とは、彼らの名前にも表れている。すなわち、異能力。

生まれつき異能力を持った、人工的に創られた人間。それがCETPだ。

もっとも、そんな存在の事は普通の人間は知らない。知っているのは、所謂“裏”の人間だけだ。

CETPのことを知っていたということは、目の前の少女は裏に属する人間なのだろう。

それはいい。銃を使っている事から見て、それくらいは予想の範囲内だ。

問題はそんな事ではない。問題は、何故青那がCETPだと知っていたのか、ということだ。

青那の生まれの事を知っている人間は少ない。それこそ五本の指で数えられる程度だろう。

その誰もが、人の秘密を他言するような人間ではない。秘密を秘密のままにしておける人間だ。

なのに、この少女は確かに青那の生まれを知っている。それは有り得ないはずのことだった。

何故ならば、CETPを生み出していた研究所は10年前に、その支部に至るまで壊滅したのだから。

研究所は瓦礫と化し、施設はおろかデータすらも完全に破壊された。

だから、青那をCETPだと知る術はない。そのはずなのだ。

青那は混乱し、我知らず叫んでいた。

「何で……、知っている!」

血を吐くような叫びに対し、少女の答えは簡潔だった。

「あなたがそれを知る必要はないわ」

「な…」

「それよりも」

何か言おうとする青那を遮り、少女が告げる。

「分かったかしら。あなたの罪が」

「……」

少女の言葉に、青那は黙り込む。

CETPの罪。それに心当たりがあったからだ。

異能の力を持って生まれたCETP達は、まるで手足の延長のように能力を扱う事ができる。

それはさながら鳥が空を飛ぶように、魚が水の中を泳ぐように、獣が地を駆けるように。

異能を扱うという事は、彼らにとって本能で行う極々自然なことなのだ。

しかし、それは何の能力も持たない人間から見れば“異質”だった。

手足を動かすのと同じように異能力――人間とは異なる力を操る。

そんなものの存在を知って、人々はどう思うだろうか。その答えは“恐怖”だ。

ただでさえ人は異質なもの――理解できないものを嫌悪する。

そして、それが自分達に害を及ぼす可能性を持っているならば、人々が取る行動は一つ。

“異質”の“排除”だ。

人々はまるで一個の生物のように一つとなり、恐怖のもとである異質を排除しようとする。

そのことは歴史を紐解いてみれば明らかだ。

つまりCETPがCETPたる所以、異能力こそがCETPの罪なのだ。

「でも…」

そこまで考え、青那は口を開く。

「でも、僕はこの力で人を傷つけたりはしない!」

そう、異能力とは結局のところ道具に過ぎない。能力が人を傷つけるのではなく、それを使う人の意思が人を傷つけるのだ。

そんなものは罪とは言わない。少女の持っている拳銃となんら変わるとこなどないのだから。

道具は使い方一つで如何様にも変わる。ならば、この能力だって誰かの役に立てるかもしれないのだ。

青那の言葉――否、宣言に少女は息をひとつ吐いた。その顔には嘲笑にも、また哀れみにも似た表情が浮かんでいる。

「あなたは勘違いしている」

「え?」

少女の言葉に、青那の眉が訝しげに顰められる。

そんな青那に、少女は冷たく告げた。

「CETPの罪とは、生まれてきたということそのものよ」

絶対零度の憎悪が込められた声が響くと同時に、廃ビルの中に銃声が響き渡った。

 

 


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