深夜。
人気の無い路地裏に、二つの人影があった。
そのうち片方は大柄な少年だった。髪を金色に染め、耳にはピアスをしている。
どこにでもいるような、不良と称される人間だ。
もう一つの人影は建物の影、月明かりすら届かない闇の中にいる所為でそんな人物なのかはわからない。
しかし僅かに見える輪郭を見る限り、さほど体格は大きくなく、むしろ小柄に見えた。
見方によっては少年が恐喝しているようにも見えるこの状況で、しかし少年の顔にはまぎれもない恐怖の色があった。
よく見れば、少年の服はあちこちが破れ、そこから見える肌からは軽く出血している。
恐怖と痛みで身体は震え、歯はガチガチと音を鳴らす。
この場において、少年は狩られる側の立場にあった。
少年は恐怖を無理やり抑え――いや、むしろ恐怖に押されたように、人影に叫ぶ。
「何なんだよ…、何なんだよお前!?」
人影は答えない。
ただ無言で腕を上げ、少年を指差す。
その指に押されるように、少年は後ずさる。と、少年の身体は崩れるように倒れた。
(え…、なん、で…?)
しかし、少年は混乱する事さえ許されなかった。
力が抜け、動かす事も叶わない視界に写るのは、宙に浮かぶ無数のきらめく何か。
それらが争うように自分の身体に殺到するのを見て、少年は凍えるような寒さを感じながら、二度と覚めぬ眠りへと落ちていった。
「…っ」
死神の冷たき鎌にその命を刈り取られた少年を前にして、それは身を振るわせた。
それは他者の命を奪うという行為への罪悪感か。それとも死という存在への畏怖の念か。
「くっ、くく」
そのどちらでもなかった。それは笑っていた。
人が死んだということが楽しくて仕方がないとでも言うように、堪えきれぬ愉悦に身を震わす。
「くくく、ははは、ははははははは――!」
それはすぐに哄笑へと変わり、辺りへ響き渡る。
その狂気すら含んだ笑い声を聞くものはおらず、ただ冷たく輝く月だけが全てを知っていた。