体は  ■で 出来ている
「――――I am the bone of my
■■■.」

            血潮は鉄で        心は硝子
 「―――Steelismybody,and fireismyblood」

           幾たびの戦場を越えて不敗
 「―――I have created over athousand blades.
          ただ一度の敗走もなく、
      Unaware of loss.
          ただ一度の勝利もなし
      Nor aware of gain」

                 担い手はここに独り。
 「―――Withstood pain to create weapons.
               剣の丘で鉄を鍛つ
       waiting for one's arrival」

          ならば、    我が生涯に 意味は不要ず
 「――I have no regrets.This is the only path」

              この体は、        無限ので出来ていた
 「―――Mywholelifewas“unlimited ■■■■■”」

 

 

「ん……む……」

意識が闇から浮上する。

頭の中には、呪文めいた言葉の羅列。なんなんだ、これ。

っていうか、身体が滅茶苦茶重い。ちょうど鍛錬のしすぎで魔力切れを起こしたときと同じ感じだ。

そう、魔力切れ…………って

「寝てる場合じゃない!?」

気を失う前に何があったのかを思い出して、一気に眼が覚めた。

叫びながら、身体を起こす。目に入るのは、いつもと変わらない庭の風景。

月の位置を考えると、意識を失っていたのはそう長い時間じゃないらしい。

精々が2、3分といったところか。

庭を見渡してみても、ランサーの姿もセイバーの姿も見当たらない。

「……あれ?」

戦闘が終わったにしろ、両者ともに姿が見えないというのはおかしかった。

セイバーが勝ったのなら、彼女は気を失ったマスターを置いて何処かに行ったりはしないだろう。

ランサーが勝ったのなら、俺は今頃生きていないと思う。

しかし、俺はこうして生きているし、セイバーの姿も見えない。まぁ、霊体化とかされてたら見えないけど、どうやらそういうわけでもないらしい。

しばし沈思黙考。

………………

…………

……

「あ……」

思いついた。セイバーが勝って、尚且つこの場にいない、その理由を。

その思い付きを証明するように、聞こえてくる剣戟の音。

そう、セイバーがこの場にいない理由。それは、新たなサーヴァントが近づいて来たということに他ならない――!

「やばい!」

考えると同時、身体は塀に向かって走り出していた。

 

 

Fate/possesser

第五話 説明

 

 

 

    トレース オン
「――同調、開始」

塀に向かって走りながら、魔術回路を起動する。

普段ならば、それだけでもそれなりの時間と苦痛が必要なのだが、今回は一瞬ですんだ。

走る足を止めず、自らの足を“強化”する。――――成功。

これまでの自分を考えれば、信じられないほどスムーズに魔術が行使できた。

しかし、その理由を考えるよりも優先するべきことが、今はあった。

“強化”した足に力を込め、地面を強く蹴る。その反作用で俺の身体は宙へと跳び上がり、3mはある塀をやすやすと飛び越えた。

塀の上に着地し、辺りを見渡す。すると、そこにはセイバーに剣を突きつけられた一人の少女の姿が――。

「って、遠坂!?」

剣を突きつけられていたのは、俺と同じ学校に通う少女、遠坂凛だった。

何故、遠坂がこんなところにいるのか。

一瞬混乱したが、すぐにその理由に思い当たる。

「そうか……、遠坂もマスターなのか」

十中八九そうだろう。

セイバーは意味もなく剣を振るうような奴じゃない。それぐらいは、召喚時の短いやり取りだけでもわかる。

彼女は騎士だ。抵抗しないものや罪もない一般市民に向かって剣を振るうようなことはしないだろう。

彼女が剣を振るうのは、敵に対してのみ。

そして、遠坂はサーヴァントには見えない(っていうか、同じ学校の生徒だし)から、マスターなのだろう。

遠坂のサーヴァントがどうなっているのかはわからないが、あの距離ならセイバーが剣を振るほうが早い。

「勝負あり、か。まぁ、セイバーにも遠坂にも怪我がなくって良かっ……って!?」

俺が状況を確認して、とりあえず塀から降りようとした瞬間、セイバーが剣を振り上げているのが視界に入った。

あの剣が振り下ろされれば、遠坂の首が軽やかに宙を舞うだろう。

俺は慌ててセイバーにむかって叫ぶ。

「ちょっ……、ストップ! ストップ、セイバー!」

俺の叫びに、剣を振り上げたままセイバーが振り向く。

その表情には、軽い驚きと強い不審が浮かんでいた。

「何故止めるのです、マスター。彼女は敵のマスターなのですよ」

「なっ……」

絶句する。いくら敵のマスターだからって、人を殺して言い訳がない。なにより、セイバーに人殺しなんてして欲しくない。

けれど、同時に理解する。倒せる相手は、倒せるうちに倒しておかなければ。不確定要素は、なるべく取り除いておいたほうがいい。

これは、戦争なのだから。

衛宮士郎/羽山煉迦がセイバーの行動を否定/納得する。

違うベクトルを向いた二つの感情に、身体が硬直する。

返事をしない俺に背を向け、セイバーは再び剣を振り下ろそうとする。

それを見て、反射的に制止の声がついて出た。

「だから、やめろってセイバ……!?」

そして、言葉の途中で何故か感じる浮遊感。下を見れば、どんどん地面が近づいてくる。

――落ちている。

そう認識した次の瞬間、俺は思い切り地面に叩きつけられていた。

 

自分の立っていた場所も忘れてセイバーを止めるために一歩踏み出し、塀から落っこちたということに気付いたのは、

全身を襲う痛みがひいた後だった。

母なる大地との抱擁は、滅茶苦茶痛かった。

 

 

 

 

「いてて……」

先程から痛みを訴えている額に手を当てる。うわ、こぶができてる。痛いわけだ。

とはいえ、それだけだ。別に骨にヒビが入っているわけでもないし、出血しているわけでもない。

鉄の血潮は伊達じゃないのだ。

「そりゃ頭から落ちればね。っていうか、あれだけ頭を強打しといてぴんぴんしてるなんて、どんな石頭よ」

テーブルを挟んで正面に座った遠坂が、なにやら不機嫌そうに言ってくる。

正座してお茶を飲むその姿は、まるで家主の如く堂々としていた。

……いや、家主は俺なんだけどね。

今俺たちがいるのは、衛宮邸の居間だ。

あの後、塀の上から落っこちるという間抜けをやらかした俺に気が削がれたのか、セイバーは剣を収めてくれた。

で、セイバーから開放された遠坂が聖杯戦争について説明してくれるとのことで、居間に招待した。

……実際には、俺を置いてさっさと家の中に入っていったのだが。

人の家に勝手に入ってはいけないという常識を知らないのだろうか、こいつは。

それはともかく、先程から沈黙を続けるセイバーが怖いので、ちゃっちゃと話を進めることにする。

「まぁ、普段から鍛えてるからな。それより遠坂、説明してくれないか。色々と」

「ええ……、それじゃまずは、あなたが巻き込まれていることについてね」

 

俺が巻き込まれたのは聖杯戦争という魔術師達のサバイバルゲーム。

聖杯戦争に参加する魔術師は、英霊をサーヴァントとして呼び出し、最後の一組となるまで戦う。

最後に生き残った魔術師とサーヴァントは聖杯を手に入れることが出来、聖杯はどんな願いでも叶えることが出来る。

以上が、遠坂の話を俺なりにまとめたものだ。

遠坂の話は、土蔵で流れ込んできた怪しい知識にあったものとおおよそ同じだったので、確認の意味でも役立った。

正直、こんな怪しい知識が頭の中にあるなんて気が狂ったかと思ったが、遠坂も同じことを知っているので、狂っているわけではなさそうだ。

……この場合、喜んでいいのかわからないが。俺が狂っただけで終っていてくれた方がよかったような気もするし。

そんなことを考えていると、

「マスター、そろそろ理由を教えて欲しい。何故、先程私を止めたのです」

今まで黙っていたセイバーが口を開いた。その口調はとても厳しく、射るような目でこっちを睨んでいる。

……が、お茶もお茶請けに出したどら焼きも、全部無くなっているのは俺の気のせいじゃないと思う。

もしかしたら、今まで黙っていたのはどら焼きを食べるのに夢中だったからじゃないかな、と思わないでもない。

いや、言ったらきっと酷い目に遭うだろうから言わないけど。

ともあれ、理由か。

「セイバーが人を殺すとこなんて見たくないからな。まして、遠坂は知り合いだ。知っている人間が死ぬとこなんて、見たくない」

これが、衛宮士郎としての偽らざる気持ちだった。目の前で人が殺されるなんて、絶対に許容できない。

それが、“正義の味方”としての“俺”の思いだ。

だが、セイバーは俺の言葉に呆れたように嘆息しただけだった。

「正気ですか、マスター。これは戦争なのですよ? 貴方は一人も殺さずに聖杯戦争を勝ち抜くつもりですか?」

セイバーの言うとおりだった。参加する人数こそ少ないものの、俺が巻き込まれたのは間違いなく“戦争”だ。

殺意を持って襲ってくる相手を殺さずにどうにかするには、相当の実力差がなくては駄目だろう。

そして、俺には魔術師やら英霊やらを相手にして、手加減するような余裕はない。っていうか、生き残れるかどうかも怪しい。

だから、そんな甘さは捨てたほうがいい。羽山煉迦はそう判断する。けど――、

「ああ、出来れば一人も殺したくなんてない」

俺の答えは、結局こうだった。これは、衛宮士郎にとって譲ることの出来ないもの。

人殺しを許容してしまえば、正義の味方を目指す衛宮士郎は自分を保てなくなる。

そうなれば、今の“俺”も連鎖的に崩壊するだろう。

故に、どんな理由があろうとも、その考えを捨てる気はない。これは、“俺”が“俺”であるために不可欠なものなのだから――。

俺の言葉に、セイバーが更に表情を険しくする。

「ならば、貴方は戦わないというつもりですか」

「いや、それは違う。向こうが襲ってくるなら、応戦する。降りかかる火の粉ぐらいは掃うさ」

「それでは、こちらからは仕掛けず、向こうから襲ってくるのを待つと。マスターはこう言うわけですね」

セイバーは険しい表情のまま、確認するように問う。

確かに誰も殺さないという条件を満たすならば、その方向でいけばいいだろう。けど、

「いや、それも違う。無理をしてまで相手を探す気はないけど、相手の居場所がわかっていれば、こっちからも討って出る。
          コ ト
こんなふざけた戦争、とっとと終わらせなきゃな」

そう、じっと待っているだけじゃ、手遅れになるかもしれない。俺みたいに巻き込まれる人が出る前に、ケリをつけてやる。

俺の言葉を聞いて、何故か遠坂もセイバーも驚いた顔をしていた。なんでさ。

「驚いた。衛宮くんて、思ったより好戦的なのね」

すぐに元の表情にもどった遠坂が意外そうな口調で言ってくる。そんなにチキンに見えるのだろうか。

「失礼しました、マスター。少々貴方を見くびっていたようだ。そのことは謝罪します」

「い、いや、いいって。とにかく俺の方針はそんな感じだけど、それでいいか、セイバー?」

セイバーも表情を戻し、軽く頭を下げる。別に謝れるようなことでもないので、慌てて頭をあげてもらう。

「ええ、こちらに異論はありません。マスターの方針に従います」

「よし……っと、そうだ」

方針が固まったのはいいが、大事なことを忘れていた。

「セイバー、出来れば、そのマスターって呼ぶのは止めて欲しい」

事情を知っている人間ならいいが、知らない人間から見たらかなりヤバイ光景だろう。

ここ日本では、そうとうまずい。下手すると、通報されかねない。

「ですが、マスター。私はまだ貴方の名前を知らない」

「え……?」

…………おぉ。そういえば、名乗ってなかった気がする。いっぺんにいろんなことが起きたからなぁ。

とはいえ、これから共に戦うパートナーに名乗りもしていないのは、自分でもどうかと思う。

「ああ、悪かった。俺は、衛宮士郎。好きに呼んでくれてかまわないよ」

「わかりました。それではシロウ、と。私としてもこの発音のほうが好ましい」

うん、少しアクセントが変だが、気にするほどじゃない。

というか、セイバーのような美少女に名前で呼ばれるのは、なにやら非常に照れくさく、アクセントの違いなど気にもならない。

照れ隠しに頬をかく俺に、セイバーが少し曇った顔で話しかけてきた。

「シロウ、貴方に名乗ってもらっておいてこんなことを言うのは心苦しいのですが、私の真名は秘密にしておいてもらえないでしょうか」

「? 真名って、確かサーヴァントの本名のことだよな。なんでだ?」

「ええ、英雄というのは、大抵の場合その英雄が死にいたる原因までもが知られています。つまり――」

「真名を知るということは、その英雄の弱点を知るということよ」

さっきから黙っていた遠坂が、セイバーの言葉を引き継ぐ。

「どんなに強い英霊でも、弱点をつかれればあっさりやられてしまうかもしれない。故に、サーヴァントは自らの正体を隠すため、真名ではなく

クラス名を名乗るのよ」

人差し指をぴんと立てて説明する遠坂。心なし普段より生き生きとしている気がする。

説明とか好きなんだろうか。似合ってるけど。

「見たところ、衛宮くんは対魔力が低そうだし、真名を教えないのは妥当な判断だと思うわ」

「説明ありがとう、遠坂」

たしかに俺の対魔力はものすごく低い。なにせ使える魔術は“強化”だけなのだ。

正直、寺の跡取りである生徒会長、親友の一成の方がまだ高いんじゃないだろうか。

一般人並の対魔力って、魔術師としてはどうかと思わないでもないが。

ともかく、そんな俺に魔術をかけることなんて、サーヴァントや魔術師からしてみれば楽勝だろう。

で、魔術の中には頭の中を覗けるようなものもあるらしい。……当然、俺は使えないけど。

ならば、俺に真名を教えないセイバーの判断は、正しい。

「ああ、わかった。それなら聞かないで置く」

「申し訳ありません、シロウ」

「いいって。俺が未熟なのが悪いんだから、気にしないでくれ」

いや、ほんとに。戦闘では役に立たないんだから、せめて他のことでは迷惑をかけたくない。

けど、それを言っても多分無駄だろう。セイバーって生真面目っぽいし、何を言っても気にするだろう。

だから、俺は余計なことは言わずに、

「とにかく。これからよろしくな、セイバー」

それだけを告げた。

 

 

 


Fate/possesserの第五話をお送りいたしました。

…………あ、あれ? おかしいな。たしか、予定ではバーサーカーとの戦闘に突入しているはずなのに。

うーむ、全然予定通りにはいきませんねぇ(汗。

っていうか、会話が難しい。オリジナルの小説なら、登場人物達に何を言わせてもいいんですが、二次創作だとそうもいきません。

そのキャラが言わないであろう台詞や、とらないであろう行動。その辺の制約が難しいです。

既に大分偽者っぽくなってきてますが、話が進むごとにこのずれが大きくならないように気をつけようと思います。

それでは、ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございます。

できれば、次回も読んでくだされば幸いです。

 

 

あ、ちなみに、感想はWEB拍手や掲示板を使ってください。

掲示板は書き込みが少なくて寂しいので、感想、誤字・矛盾の指摘、今日あった出来事などなど、なんでもいいので書き込んでみてください。

それでは、よろしければこれからもお付き合いください。

 

もどる