――。

――――。

――――――――。

…………ん? んん?

なんだかやたらとごつごつした感触を背中に受け、目を覚ます。

身体を起こしてみると、なるほど納得。

どうやらボクは岩場に横になっていたらしい。

もちろんボクに岩の上で寝る習性があるわけじゃない。

例によって例のごとく、また“飛んだ”らしい。

「――――」

やれやれだ。肩をすくめてそう言ったはずのボクの口からは、何故か何も聞こえてこなかった。

およ?

もっかい試してみる。

「――――」

やっぱり声が出ない。

むぅ、“飛んだ”時に何か失敗したのかな? 声が出ないや。

うーむ、こいつは困ったねぇ。はっはっは。

…………ま、いっか。

どうせ一晩たったら“戻る”んだし。

問題ないでしょ、多分。

 

 

 

それはそれとして、ちょっと暇だなぁ。

周りを見ても、目に入るのは岩ばかり。

折角“飛んだ”んだから、楽しまなきゃ損でしょ。

とりあえず、ここにいても超絶暇なので移動することにする。

前と後ろと左と右と。さて、どこに行こうかなぁ。

ボクに羽があれば上にもいけるのにねぇ。残念無念。

まぁ、あんまり選択肢が多くても困るから別にいいか。

 

さて、どこにいこうかな。

こういう時、棒があれば倒して行く方向を決められるんだけど……。

お! あれに見えるは、棒状の物体。

ちょっと離れた場所にあるそれに向かって、足場の悪い岩場を跳ねるようにして移動する。

「――――」

よっと、って言いたかったんだけど、どうにも声が出ないのは気持ち悪いなぁ。

掛け声もかけられないのは、微妙に不便さぁ。

そんなことを思いながらも、岩に引っかかっている棒状のそれを拾う。

……。鑑定の結果、「元傘」と判明しましたー。ちゃららーん。

何故「元」かと言うと、傘というには肝心の膜がないから。

素敵なまでに骨だけです。これまたきれーにとれてるんだよ。

こんなのを雨の中でさしたら、次の日に風邪を引くのは間違いないね。

っても、ボクは傘が欲しいんじゃなくて棒が欲しかっただけだから、結果オーライ。

この元傘(現アルミの棒)をなるべく平らな岩の上にまっすぐ立たせまして〜〜。

無風状態になったら、手をパッと離す。

で、倒れた棒が指し示すのは――――右。

よし、じゃぁ右に向かって進むとしますか。

れっつらごー。

 

 

 

…………お?

しばらくまっすぐ歩いていると、続いていた岩場がようやくとぎれた。

で、その先に乱闘している人達がいた

10を超える数の人影がうじゃらうじゃらと動き回っている。

しかもよく見てみると、どうやら一対多数の戦いらしい。

人影の多くは一つの影を取り囲むように動いている。

うわーい、イジメ、カッコワルイ。

って言っても、そんな状態でも勝負にはなっているっぽい。

中心の人影が殴ったり蹴ったりするたびに、取り囲んでいる影達はばったばったと倒れていく。

……そういえば、あれだけの乱闘だっていうのに、ずっと無言だっていうのはおかしくないかな。

…………はぅあ! そうか、ボクは声が出せないんじゃなくて、耳が聞こえないだけだったのか。

あっはっはっは。……状・況・悪・化!

いやまぁ、べつにいいけどさ。ペナルティくらうのは、ホントに勘弁して欲しいなぁ。

 

っと、そんなことを考えているうちに、立っている人影が二つにまで減ってますよ。

しかも、ちょうどいい具合に雲が流れて月明かりが出てきて――――あ?

えっと、ですね。あの、なんか、怪人がいた

いや、どんなっていうのはあえて描写をさけよう。各々の脳内で適当に思い浮かべてください。

で、もう片方は普通の人間でした。

や、一人で十人以上の人間と乱闘して倒せるのは普通といっていいのかどうかわかんないケド。

っていうか、倒されたやつらも怪人じゃないよね?

十人以上の怪人が死屍累々と倒れている光景。……シュールだ。ある意味地獄絵図だね。

けどまぁ、そんなことはなかったようで、倒れている彼らのシルエットは普通の人間のものでした。

? シルエット? 月明りがこんなに明るいのに?

よく見れば、それはシルエットじゃなくて黒いボディスーツ、いわゆるタイツだった模様。

瞬間、ボクの脳裏に走る稲妻。

慌てて仰向けに倒れている人はいないか探す。

――――いた!

その姿を見て、ボクは脳裏に閃いたそれを確信する。

彼らは、彼らは、シ○ッカーの皆様じゃありませんか!?

くっ、もし耳が聞こえていたのなら、生「イィーッ」が聞けたかもしれないのにッ!

くぅぅ、勿体無い〜。

けど、けどまだ! まだ変身シーンが残っている!!

そんなボクの期待に応えるように、青年が腕を大きく回し始める。

その動作と共に、青年の腰にはいかついベルトが現れる。

そしてベルトの中心にある風車が回り始め、おそらくは「とぅ」という掛け声と共に青年が大きくジャンプする。

そして、着地し、月明りに照らされたその姿は――――!

仮面ライダー

風車の回る大きなベルト。

風にたなびく赤いマフラ−。

昆虫を思わせる複眼をのせたヘルメット。

それは、ちびっ子達のヒーロー、仮面ライダー。

うっひゃー。生で変身を見れるとわ〜。

いや、ボクもリアルタイムで見てた世代ではないんだけども。

中々クるものがあるな〜。

変身ヒーローと正義の味方は誰でも小さい頃は憧れるものですよ。

 

お、戦いが始まった。

両者共に武器とか持ってないから、基本的に格闘戦なんだよね。

殴る。

蹴る。

避ける。

投げる。

めまぐるしい攻防が繰り広げられる。

距離を置いて見ているから何とか捕捉できるけど、間近で見ると何がなんだかわかんないんじゃないかな。

それぐらい、動きが速い。

や、さすが改造人間と怪人だわ。サイボーグ009達とでもいい勝負ができるんじゃ?

と、そんなことを考えているうちに、少しずつライダーが押し始めている。

怪人も必死で応対しているけど、徐々に拳や足刀で打たれる箇所が増えていく。

そして、ついにライダーの蹴りが怪人にクリーンヒットした。

軽く3メートルは吹き飛ばされる怪人。

てか、怖っ! ライダーの脚力ってどんなのさ。

怪人はよろよろと震える足で立ち上がろうとしているけど、身体に力が入らないのか中々うまくいかない。

それを見て、ライダーがとぅ、とばかりに高く跳び上がる。

ああ、あれは!

重力による落下と自らの超人的な脚力を一点に集めて敵を打ち抜く必殺技。

ライダーキック

ライダーキックをもろに受けた怪人は先程の蹴りの比ではないほどに吹き飛ばされ、

「――――」

何事かを叫んだ後に、爆散した。

あとに残ったのは静寂と、どこか泣いているようにも見えるライダーの姿だった。

彼は黙祷を捧げるかのようにしばらくの間立ち尽くし、やがて立ち去っていった。

 

 

 

う〜ん、すごかった。

生で超人の戦いを見れることっていうのはあんまりないもんねー。

うん、いいもの見たよ。あの怪人の人には悪いけど。

正義の味方、かぁ。

色々と思うことは無きにしも非ずだけど……、ま、いいか。

昔っからあるように、勝てば官軍。勝ったほうが正義ってことで。

実際、いろんな世界に“飛ぶ”たびに、いろんな正義を見るもんねぇ。

価値観なんて人それぞれ。

世界ってのは、そんなもんだぁね。

 

さて、それじゃ夜が明けるまで、何をしてようかな。

……ん〜、月が綺麗だし、お月見と洒落込みますか。

あぁ、今夜はこんなにも、月が綺麗だ。ってね。

――――――――。

――――。

――。

 

 

 

「ん? ん〜〜〜……、ん」

目が覚めた。

何か、普通に目が覚めた。

時計を見れば、目覚ましが鳴る5分前だった。

うん、やっぱ死に戻りじゃないときは目覚めがいいなぁ。

「うん?」

右手に違和感。

見てみると、骨だけになった傘が握られていた。

「ありゃ、もってきちゃった」

まぁ、別にあってもなくても大差ないものだし、別にいいか。

これがドラゴンボールとかだったら、さすがに慌てるけどね。

久しぶりにゆっくりお月見もできたし、

「結構、いい夜だったな〜」

さて、さっさと準備して、学校へとGOですよ。

GO。

 

 

 

今回の収穫 : 壊れた傘


「異世界夢旅行」「改造人間編」をお送りいたしました〜。

今回は、WEB拍手で「仮面ライダー」のリクエストを貰ったので、一応やってみました。

…………実は、蒼夜は仮面ライダーシリーズはRXしか見たことないというのは、ここだけの秘密です。

 

さて、今回も目茶苦茶でした。

なにせ、怪人の描写すら出てきませんでしたし。

あぁ! 石を投げないで!?

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

全てはこの指と電波が悪いんです!

 

そんなわけで(どんなわけ?)、「異世界夢旅行」「改造人間編」これにて終幕でございます。

次に「ボク」が“飛ぶ”のは、果たしていかなる世界なのか。

リクエストがございましたら、メールか掲示板かWEB拍手でお送りください。

皆様からのお便り、お待ちしております。

 

 

なお、蒼夜の知らない世界には送ることができませんので、その場合は平にご容赦を。

ではでは。再見。

 

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