天には月が輝き、耳に届くのは木々の揺れる音だけ。

そんな光景を見ながら、

「風流だねぇ」

木の枝に引っ掛かったまま、そう呟いてみた。

「よっ、と」

木の枝を掴んで身体を反転。鉄棒みたいにして地面に降りる。

「うん、百点」

着地を自画自賛してみたり。

これでも運動神経は良い方なのだ。

さすがに、異世界の人外と追いかけっこできるほどじゃないけど。

「さってと。今夜はどんなところに“飛んだ”のかな〜」

パジャマについた葉っぱをはたきながら、周りを見渡す。

「……うーん、木しか見えない」

あとはお空のお月様。

耳をすましてみても、何も聞こえやしない。

「……ふぅ。ま、じっとしててもしょうがないし、動くとしますか」

とりあえず右手に向かって歩き出す。

さて、今回はどんな目にあうのやら。

 

 


少し歩いたところで、木々が途切れた。

足が伝えるのは、加工された石の感触。

目に入るのは、ボクの上から下まで斜めに続く石の段。

ぶっちゃけ、石造りの階段だった。

これがまた長い長い。

「昇って降りるだけで結構な運動になりそー」

ま、それはともかく。

 

 ・石段を昇る

 ・石段を降る

 ・石段を無視して林に戻る

 

選択肢はこんな感じかな?

いやまあ、分岐はしないけどねー。

うーん、ゲームだったら間違いなく三番を選ぶんだけど……。

何もない木々の群れを歩くのも飽きたし。

ここは素直に石段に進むとしますか!

次の問題は、昇るか降るかということだけど……。

うん、ここは昇るしかないでしょ!

高いとこ大好き!

…………馬鹿じゃないよ?

ほ、本当だからね!?

ま、まあ、とにかく昇るとしましょう。

月明りを存分に浴びながら、石段を一段一段昇っていく。

もう少しで石段が終わる、というところで、

「――そこまでだ」

虚空から声が響いた。

「ほぇ?」

足を止めて辺りを見回して見るけど、誰の姿も見えない。

「???」

首を傾げていると、目の前の空間から、すーっと人間が現われた。

「うわっ!?」

凄い出現の仕方だ。凝ってるなぁ〜。

しかも、その出てきた人もふるっている。

なんだろう、一言で言うと、“侍”って感じ。

陣羽織を羽織っていて、その手にはなっがい刀を握っていて――

――か、た、な、?

うわぁ! 刀持ってるよ、この人!?

月の光を受けてぎらりと輝くその長物は、とても模造刀には見えない。

うわぁ、こわぁ。

「このような夜更けに、何用だ?」

話しかけられた。

何用って言われてもねぇ。

「すまぬがこの身は門番として此処にあるのでな。此処を通ろうとするならば、斬らねばならん」

こわいなぁ。

「んー、通らなければいいの?」

「ふむ、それ以上進まぬというならば、こちらには斬る理由はないな」

刀を握ったままそうのたまるお侍さん。

ま、ボクも無理してまで進みたいわけじゃないし。

「それじゃ、ここで止まることにします」

「む?」

石段に座り込むボクに戸惑ったような声をあげるお侍さん。

いいじゃん、別に。足が疲れたんだよぅ。

この石段長いんだもの。

「何をしている?」

「足が痛いから休憩ちゅー。別にここに居る分には構わないでしょ?」

いや、私有地だから駄目とか言われたらアレだけど。

「ふむ、構わぬが……」

「が?」

「一体何用で参ったのだ?」

別に用なんかないしねぇ。強いて言うなら、

「月夜の散歩?」

「くっ、はは」

首を傾げながら言ったら、笑われましたよ。

「いや、すまぬ。このような場所に散歩とはまた酔狂なものと思ってな」

酔狂……。まあ、否定は出来ないよね。でも、

「こんな人気のない場所で門番してるのも相当なもんだと思うけどー?」

言われっぱなしも悔しいので言い返すと、

「ははははは!」

大爆笑されました。

大丈夫かな、この人?  なんとかと刃物っていう組み合わせは目茶苦茶怖いんだけど。

そんなこっちの思いを余所に、お侍さんは機嫌良さげに口を開く。

「いやたしかにそなたの言う通り。このような場所で門番というのもなかなかに酔狂ではあるな」

くくっ、と楽しげに笑う。もしかして、

「お侍さん、笑い上戸?もしくは会話に飢えてる?」

「ふむ?  笑い上戸かどうかは知らぬが、人と話すことは多くはないな」

まぁ、こんなとこにいればねぇ。

「一日中ここにいるの?」

「然り。此処から離れては、門番にならぬだろう」

そりゃそうだ。

「でも、それだときつくない? 言っちゃなんだけど、ここ何にもないし」

ホントに何もない。ここに一日は辛いっしょ。

「なに、そうでもない。花鳥風月、自然を愛でるのも悪くはないものだ」
「ふーん」

「それに、女狐の生活を見物するのもおつなものよ」

女狐? ……狐が出るんかい、この寺は。

しっかし、なかなか面白い人だなぁ。

これなら朝まで退屈しなくてすみそう。

――――――

――――

――


「聖杯戦争、ねぇ?」

月明りに照らされた石段で、僕はお侍さんと色々な話をした。

馬鹿長い刀を無視すれば、彼は見目麗しい麗人だ。

綺麗なものっていうのは、それだけで価値があるよね。

性格の方も、クセがあってなかなかおもしろい。
僕はクセの強い人って大好き。

ま、それはともかく、色々な話をして、聖杯戦争なるものを教えられた。

どうしてその話題にいったのかは覚えてないけど、多分話の種が尽きたからだったと思う。

「聖杯戦争、ねぇ?」

同じ言葉を繰り返す。いやもう、何ていうか、

「バトルロワイヤルとドラゴンボールを足して割った感じ」

正直な感想です。

「ふむ?」

「ああいや、こっちの話。気にしないで」

説明するのめんどいし。

しかし、ってことはだ、

「お侍さんは幽霊なんだ?」

そのわりには足あるけど
「然り。この身はたしかに亡霊よ」

おぉ〜、ボクも色々な存在を見てきたけど、幽霊は初めてかも。

霊視とか出来ないしね、ボク。

「しかし、この身よりもそなたの方が面妖であろう」

「およ? それは一体どういうことでござんすか?」

ボクは極めて一般人ですけども?

「そなた、この世のものではあるまい? 現世のものではありえぬ存在感の薄さ。サーヴァーントよりも薄いそなたは、さて何者であろうな?」

うわ、いい勘してるなぁ。

って言っても、ボクに返せる言葉はないわけで。
「強いて言うなら、旅人かなぁ?」

「ほう?」

「世界から世界へと渡り歩く根無し草。それがこのボク。……いや、帰るところはあるけどね?」

自室のベッドとか。

「なるほど。異界の住人であったか」

なるほどって、

「あれあれ? そんなあっさり信じるのん? 自分で言うのもなんだけど、かなり怪しい話デスヨ?」

「なに、それはこちらとて同じこと。既に死んだ筈の亡霊がこうして存在しているのだ。異界からの旅人がいてもおかしくはあるまい」

ごもっとも。英霊なんてものに比べれば、ボクなんてたいしたものではないですな。

っていうか、この人思考が柔軟だなぁ。

「む?」

「うん? どうし――」

そこまで言って気が付いた。

ボクの身体が少しずつ透け始めてるのだ。

「オゥ、時間切れのようで」

その言葉に納得したように頷くお侍さん。

「時間切れ、か。いや安心したぞ。此処に居座られたらどうしようかと思っていたところだ」

「何日か居るなら街の方へ行くよ〜。ここ何もないし」

そんな風に言葉を交わしている間に、身体はどんどん透けていく。 あと一分もないかな。

そう判断し、ボクはお侍さんに向き直り、頭を下げた。

「今晩は、お邪魔しました」

突然の行動に面食らっていたお侍さんも、ボクの言葉を聞いて笑みを浮かべる。

「なに、こちらこそ一晩の慰めになった。礼を言わせてもらおう」

「それはなによりです。また何時か何処かで会うことがあれば、今度はお茶でも飲みましょう」

なんならお酒でもいいし。

この人には月見酒とか似合いそう。

「ふむ。それもまた一興。楽しみにしていよう」

「それでは〜。あでゅー」


――――――

――――

――


目が覚めた。

「知ってる天井だ」

ていうか自分の部屋。

「うーん、……うん!」

今回は良かった。

なにせ、死ななかったどころか、人と話せた。

“旅行”中に人と話したのは久しぶりだったなぁ。

痛い思いも怖い思いもしなかったし、余は満足じゃ。

「――っと、もうこんな時間か」

ちゃっちゃと着替えて学校行くべさ。

「今日も一日、がんばろー」


 


「異世界夢旅行」「山門のお侍編」をお送りいたしました。

今回は、初めて会話があります。

正直、この人はこんな喋り方だったかどうか自信がありません。っていうか、多分違うかと。

難しいのですよ、あの人は。

でも好きなキャラなので、書かないという選択肢もあらず。

まぁ、だいぶ偽者チックになってしまいましたが、そこはそれ。数多の平行世界のうちの一つとでも思ってください。

 

 

語り部たる「ボク」を飛ばす世界のリクエストをお待ちしております。

蒼夜だけでは中々思いつかないもので。

リクエストがありましたら、WEB拍手かメール、掲示板でお願いいたします。

 

追記

語り部たる「ボク」の名前を募集中です。

蒼夜の中でいくつか候補はあるのですが、微妙に決まらず。

心の琴線に触れる名前があれば、それにしたいと思っています。

こちらもWEB拍手かメール、掲示板でお願いいたします。

 

ここまで読んでくださった方に、感謝を。

それでは、再見。

 

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