「ん……」

目を開ける。

まず目に入ったのは、煌々と輝くまあるい光。

「……あ、月か」

自分の呟いた声で、意識が少しはっきりした。

どうやらボクは仰向けに寝転がっているらしい。

「よっ、と」

掛け声一つ、身体を起こす。

あたりを見渡せば、十メートル四方がフェンスに囲まれていた。

「ふむ?」

フェンスへと近寄ってみる。

そこから見えるのは、高所恐怖症の人なら真っ青になるような高所からの風景だった。

どうやら怪しい研究所とかではなく、単なるビルの屋上だったらしい。

ちょっと、ほっとした。

研究所で身体中いぢくりまわされるのは、たとえ一晩だけだったとしても御免こうむる。

以前そういう目に遭ったときは、発狂するぐらいきつかったし。

思わず自爆ボタンを押すとこだったよ。

まぁ、もってないけどね、そんなもの。

 

戯言はともかく、ここは一体どこなんだろう。

右を見ても、左を見ても、ボクの知ってる風景なんて微塵も無い。

さすがのボクにも、見知らぬビルの屋上に置き去りにされるような理由は――――――多分無い。

うん、無い、と思う。……無いかなぁ。

 

と、ともかく、こんな場所にいる心当たりなんてボクには一つしかない。

ボクの、ボクによる、ボクだけの特技、「異世界夢旅行」!

眠っている間に異世界へと旅行できるという、素晴らしい特技をボクは持っているのですよ。

ふははははは。いーだろー。

まぁ、ちょっと問題をあげると、自分ではコントロールできないっていうのがあるけど…………些細なことさ。

えぇ、試験の前日に“飛んだ”せいで次の日疲れが残っていて、まともに試験が受けられなかったりしたけど、些細なことさ

…………つ、強がりなんかじゃないもん。ホ、ホントだよ?

 

ゴホン!

ま、まぁ、そんなわけで、ボクはどんな世界に“飛んだ”のか、情報を集める必要があるのですよ。

毒ガスで死んだり、人工衛星に押しつぶされたりするのは、マジで痛いし苦しいので。略して痛苦しい。

なるべくあんな目には遭いたくないので、回避するべく頑張るのですよ。まる。

 

とはいえ、周囲を観ても特に有力な情報はないなぁ。

別に月が二つあるわけじゃなし。怪しい魔界生物が飛び交ってるわけでもなし。…………ちぇ、つまんないの。

やれやれ、仕方ない。

今まであえて触れずにいましたが、もうこれしか選択肢が無いようですよ、奥さん。えぇ。

目の前に浮いている巨大な八面体しか。

でかい、でかいよコレ。とりあえず、ボクのいるビルなんかより全然でかい。

あ、あれだ。ウルトラ○ンと戦えるようなサイズ?

しかも、一番下の角になっている部分。どうやらドリルみたいにっているらしくて、地面をゴリゴリ掘り続けてますよ。

「うぅ〜ん、どっかで見たような気がするんだけどなぁ」

…………(しばし沈思黙考)

はっはっはっは。思い出せないや。

しょせん、歴史のテスト(100点満点)で15点(当然赤点)を取るような脳みそですしねー。

きっと中身はスカスカですよ〜。……しくしくしく。

 

「……おや?」

ボクがしばしの間いじけて床にのの字を山ほど書いている間に、少し変化が起きた。

なんか隣の結晶君が、急に一方向を気にしだしたのデス。

「んー? んーーー」

ボクもそれにならって、その方向に目を凝らしてみる。

まぁ、そっちの方向がにぎやかだからってのもあるんだけど。

「ズーム、イーン」

両手の指で輪を作り、それを覗く。

…………おぉ、見えた見えた。

ふっ、自慢じゃないがいややっぱり自慢だけどボクの視力は遊牧民族に負けないぐらい良いのさ〜。

両手の輪は別に必要ないんだけど、そこはそれ。ノリで。

 

で、見えた風景を説明すると、だ。

「二匹の鬼が盾と鉄砲を持ってる」

……why? 何事ですか? 何この摩訶不思議な光景?

しかも、この縮尺からして、あの二匹はかなり大きいんじゃないかと。

橙色の鬼は全身を覆い隠せそうなおっきな盾を持っていて、紫の鬼は(角付き! 赤じゃないのが惜しまれる)これまたおっきな鉄砲を――

「あ」

思い出した! 思い出しましたよ、ボビー! ボビーってだれだ。

あの鬼は、あれだ。

人型汎用欠陥兵器――もとい、人型汎用決戦兵器、エ、ヴァ、ン、ゲ、リ、オ、ン――!

「ををー」

生で見ちゃったよー。

ってことは、このボクの隣でウィンウィンいい始めている結晶君は――

「醍醐氏と――変換間違えた――第五使徒、ラミエルーー!?」

まずいまずいまずい。

この状況はまずすぎる〜〜。

このままでは、ボクまで一緒に――。

 

そこまで考えたところで、ボクの視界は閃光で埋め尽くされたのでした。

うぅ、直撃ならともかく、余波で消し飛ぶなんて哀しすぎる〜〜。

や、直撃されるのも嫌だけど。

 

 

 

「うぅ、ん。…………っ、あ〜〜」

そして、朝。

爽やかな日の光と、小鳥の囀りで目を覚ます。

目に入るのは、見慣れた自分の部屋。

「あっはっは」

なんとなく笑ってみた。

いやー、すごかった。久しぶりに物凄い死に方をした。

蒸発して死ぬなんて、まだ3回目くらいだよ。

「やー、死に戻りが多いなぁ」

生きて戻れたことってあんまりないしねぇ。

死ぬ瞬間はかなり痛苦しいし、できれば避けたいんだけど……、

「今回は、ねぇ。ちょっと状況がきつかったかな〜〜」

目が覚めてすぐに逃げ出しても、生き残れるかは怪しかったしね〜。

ま、しょうがないか。

「またそのうち行く機会もあるやぁね〜」

さて、とっとと着替えて学校にいきますか!

 

 


 

「異世界夢旅行」「福音編」でした。

なんとなく書き始めたら、次から次へと指が動く動く。

目茶苦茶楽でした。

結局エヴァのキャラが出てない上に、何したにいったんだかわからない話になってしまいましたが、

このシリーズは、大体こんな感じです。

まぁ、さすがに次からはキャラとの会話ぐらいはあると思いますが、この主人公、作品の本編に絡むことはまずないです。

「ボク」は“異邦人”でも“訪問者”でもなく、単なる“旅行者”ですので。

“飛んだ”世界を大いに楽しみ、夜が明けるか死ぬかすると還っていく。

そんな、浮かんで消える泡のごとき存在です。

 

基本的にこのシリーズ、何も考えずに書くので、超楽です。

ですので、他の作品がうまく書けなくなったら、また適当に書くと思います。

その時までに、リクエストがあればいいなぁ、とか思いつつ。

それでは。再見。

 

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